■日本の総合アパレル企業の出店の勘違い
「小売業は立地と規模によって品揃えを変える必要がある」このシンプルな原則をチェーンストア展開という言葉の呪縛にとらわれ過ぎている企業は忘れがちになる。店は顧客によって成り立っている。同じ店舗面積でも3万人を対象顧客にしている店舗と30万人を対象顧客にしている店舗では、よほど戦略的な商品作りをリスクをとって行わない限り商品の品揃えも価格政策も同一にはできない。通常は対象顧客が多ければ多いほど高価な商品まで売れやすくなるし、一般には見受けられないユニークな商品まで売れるようになる。
逆に対象顧客が小さければ小さいほど低価格でおなじみの商品が売上の中心となる。例外は業界ナンバーワンの圧倒的なコストパフォーマンスの特徴ある商品を作り上げられた時のみ、対象顧客が少ない店舗も対象顧客が多い店舗も低価格でおなじみの商品が売上の中心となる(もちろんその場合も対象顧客が多い店舗では購買頻度の低い商品や特大、特小サイズなどのイレギュラー商品も仕掛ければ売れる。
しかしその場合も最も効率が良いのはレギュラーの低価格でおなじみの商品がダントツの販売数量となる)。これらは浸透率、普及率・カバー率というマーケティングの概念で考えれば当たり前のことなのだが、日本の総合アパレル企業で叫ばれるマーケティングは狭義に捉えられ“当たり企画を考えだすための技術”程度としか捉えられていないため理解が進んでおらず逆に正道のマーケティングは軽視されている状況だ。
特にメーカー系店舗はモノ作りが優先し、自分たちが企画・製造、調達した商品を数パターンに分類したとしても送り込んでしまう。送り込みの手間を考えれば立地や店舗規模が多少違ってもできるだけ同一パターンで単純な納品をした方が良い。しかし今のようにモノが売れない時代にはこのやり方が一番残品が出るはずだ。市場に力が十分に有り多少のアンマッチの商品であっても価格を少し下げれば売れる時代から、市場に力が乏しくアンマッチな商品は価格を下げても大量に売れ残る時代となったからだ。
現在もそしてこれからもトレンドゾーンは客観的に見て市場に力が乏しい。この方法では残品率が減少するはずがない。ビビッて生産調整に取り組めば、売るべき店、売るべきタイミングで欠品となる確率が高くなり縮小均衡にさえならず競争率はますます低下するだろう。本来はアパレルはコントロールされた適正なリスクをとるべき産業でなければならないのだ。
あるべき姿は専門店、小売店の基本に立ち返り、店舗の立地や商圏、ターゲット顧客に合致した品揃え、価格の基準を知り、その基準に合わせたモノづくりを行うべきだ。今はリテール型SPAチェーンのみが元気でその他は総崩れという状態であるが、その原因はここにある。リテール型企業は売れなければ仕入れないし、作らない。ところがメーカー系企業は高度経済成長やSC大量出店に合わせてロットを増やし続けて創り続けてきたためザックリとしたコントロールができないのだ。
ところがメーカーの経営者や幹部はこの部分に目を向けず、「トレンドの読みが外れたから残品が出た」「トレンドに乗れない商品企画担当者、デザイナーだから業績不振だ」と考えがちだ。しかしこれは間違っている。店舗の立地を分析し、間違った出店をしないことがまず重要だ。次には出店立地や客層に合わせたあるべき姿の商品構成を考えることが事業再構築の原点となる。
また出店立地をSCタイプで考えるのも良くない。あくまでも立地特性、想定商圏人口、商圏内競合度(=独り占めが一番楽に売れるため)を重視することが重要だ。SCの廃墟化も特別なことではなくなった時代には思い込みを改めるという決意がなければ事業の再構築は実現できないだろう。