今、旅行業界で話題になっているパンフレットがある。
JTBが今期の春夏シーズン用に置いた国内パッケージ旅行「エースJTB」の赤いパンフレットだ。—–
これは2014年3月10日のダイヤモンドオンラインの記事「JTBが国内のホテル・旅館に“基準”を導入した真の狙い」の冒頭部分です。
記事内容を簡単にまとめますと……
JTBでは個人旅行(エースJTB)パンフレットを、春夏/秋冬シーズンと年2回制作・発行していますが、
今年度の春夏パンフレットより、宿の品質保証を謳う「6つの約束」というページを設けています。
この6つの約束とは、
【1】JTBで独自収集している年間約50万件のお客様の声をもとに高評価の宿を厳選
【2】和室は10畳以上、洋室は20平米以上のゆったりとしたお部屋
【3】景色・眺望の良いお部屋へのご案内
以下、夕食はパンフレットに掲載されたものであること、夕食は温かいものは温かく冷たいものは冷たく提供すること、一部の場所ながら手荷物を預かるまたは配送すること、を指しています。人気若手女優の武井咲さんが出演しているCMで見た人もいるかもしれません。
で、当然、その条件の遵守を旅館側に求めたのだが・・・という話です。
当該記事では、JTBの宿に対する「基準」の導入によって、「現地を訪れてみるとイメージとは違っていたり、候補が多すぎて決めるのに苦労したりすることがある」オンライン旅行代理店に対して品質と安心感で差別化できるとし、また宿側にとっても、手数料が安く、宿泊料金も宿側で機動的に変更可能なオンライン旅行代理店の台頭によって、「従来型の旅行代理店とは距離を置き始めており、必ずしもマイナスばかりではないとみているようだ。」
と、記載していますが、その実態は、少し異なるようです。
旅行代理店は各地区ごとに重点送客施設を設定し、年間を通した送客の交換条件として、宿から様々な特典を引き出しています。
自らの機能では商品を持ち得ない代理店にとっては、商売のタネである商品(=旅行代理店では「部屋」)を、どれだけ好条件で引き出せるかが重要です。
宿からすると、良い商品を渡す代わりに、悪い商品も売るというのが、従来の宿と旅行代理店の取引関係だったわけです。
当然ですが、宿には沢山の部屋があり、今回の「基準」に対しては、ある宿は基準を満たす、満たさないという話ではなく、
実際には、ある部屋(=条件の良い部屋)は基準を満たすが、ある部屋(=条件の悪い部屋)は基準を満たせないというのが大半です。
となると、今回の基準は、基準を満たさない宿の切り捨てではなく、基準を満たさない部屋の切り捨てというのが実態です。
しかも基準を満たさない部屋分の提供室数を減らせばいいという話ではなく、
基準を満たさない部屋の代わりに、良い部屋を提供してほしいというのが、ホンネの要求内容となります。
たとえばビーチに面したリゾートホテルでは、(自力でも販売可能な)オーシャンビューの部屋だけを出来るだけ多く提供してください、
もちろん手数料は貰います、山側の部屋は要りません、となるということです。
そして仮に提供室数を維持しない場合は送客が減ってしまうかもしれない・・・というわけです。
つまりこれは、旅行代理店同士の優良商品の囲い込み競争の一環であり、それに宿が巻き込まれているのが実態です。
この流れ自体は、旅行代理店の販売力低下の証左であり、もし宿に売りづらい部屋だけ取り残されるとしたら、マイナス以外の何ものでも無いはずです。
宿にとって、部屋とは最大の経営資源です。経営資源は、優良なものも、劣位なものも含めて資源です。
どのような資源配分が最適化かを改めて考え直すべき施策といえそうです。
取引先からの一見良さそうな要望でも、資源配分の点から考えると、実は要検討というものもあるかもしれません。
こういった資源配分の最適化という視点がビジネス上を長期的に発展させていくポイントではないでしょうか。