こんにちは、船井総研の山本 匡と申します。
今回は、同規模の量販店でありながら、経営内容に大きな格差がついた事例についてのつづきです。
■事例2 独立系中堅量販店Aの場合
オーナー創業者一族による同族経営を継承しているこの会社は、常に即断即決、投資すべきところは投資し、引くところは引くというメリハリのはっきりした経営をおこなっています。トップの店舗開発に対する関心は強く、物件はかならず現地確認し、情報が入ると即座にトップ自らが動くという体制が出来ています。
結果、毎年1店舗以上の増改築や新規出店を実施し、確実にキャッシュフローをあげています。また、本店のほかに数店舗旗艦店を有しており、簡単には揺らがない体制を構築しています。
ここで、量販店というビジネスのKFS(key factor for success)はいったい何なのか、あらためて考察してみたいと思います。商売は無店舗販売と有店舗販売に分かれます。有店舗販売はお客様にご来店いただくことがその成立の根幹になります。ですので、わざわざ来店するに足りる商品、店舗、販促の3つが、他の企業より自社を優れたものと認識していただくためのポイントになります。
理想は商品が優れることですが、これは容易ではありません。どの量販店も取り扱い商品の大部分は他の企業と同じメーカーや問屋さんから供給を受けています。安いといっても大きな差がつくものではありません。
販促(プロモーション)においても、各社チラシやイベントなど創意工夫をおこなっていますが、たとえテレビで宣伝したところで、商圏の狭い地域特化型ビジネスですから大きな差はつかないのです。
もちろん人材、人間力の差というのもあります。しかしここではそれは同等のものと考えますと、結局差がつくのは店舗ということになります。店舗とは、店舗の立地と構成と規模です。
構成は後からでも変化できますから、容易に変化できないものは立地(場所)と規模ということになります。
どうでしょう?こう考えてみるとあたりまえのように感じられるかもしれませんが、業績の差とは突き詰めれば店舗立地と規模の差なのです。ですから、量販店のトップが最優先になすべきことは、よりよい立地に大型店を開発して近隣競合より常に優位に立つ、ということの繰り返しなのです。開発可能な用地はそうそう簡単に出てきませんから、少ないチャンスを確実に得るとともに、失敗する案件に絶対手を出さないということもまた重要なことなのです。
投資してしまったものは後悔しても二度と帰ってきません。
こうしてみますと、成功する店をつくる以上に失敗する店をつくらないことが重要であることがお分かりいただけるかと思います。
■事例3 独立系中堅量販店Bの場合
この企業は事例Aと同じくオーナーの強いリーダーシップで立ち上がった会社でしたが、競合激化の波にもまれて経営が悪化し、最終的には外部から経営者を招聘してたて直すことになりました。立地は主として都心型ですが、郊外型店舗も有しています。
なぜ悪化したかというと、同業態競合がより規模の大きい店を次々と開発し、この企業の出店している都市を狙い打ちにするかのように進出してきたことです。
この企業はその時点では、規模の拡大ではなく安売りと宣伝によって乗り切ろうと考えました。テレビなどのメディアへの広告を増やし、安売りを訴求しましたが、結果としては店頭価格は競合店とさほど変わらず、価格訴求は成功しませんでした。さらに、過去の成功体験を引きずり、フルライン型店舗を専門
店に絞り込むという作業も後手に回ってしまい、結果として大型総合店の縮小相似形的な店舗を多数展開することになってしまいました。こうなると目的来店客を獲得するのは難しく、店頭前通行客をキャッチすることにまい進し、結果として1階の売上は大きいが2階以上の売上集客は激減する、というアンバランスな店になってしまいました。
本来この会社がすべきことは、複数のビルに分散していた店舗を集約統合して、フラッグシップを取り戻すことでした。しかし時すでに遅く、そのことに気づいた頃には資金も枯れ果てていたということになったわけです。
どの企業にもあてはまることですが、旗艦店=フラッグシップ店舗の存在は非常に重要なものになります。いわば本拠地ともいえる強い旗艦店舗に対して社員のロイヤルティ、一体感は強く形成されます。