求人誌の広告で「販売スタッフ募集 時給○○円」と広告を出しています。企業名を見てみるとその多くは名の通ったアパレル専門店チェーンです。よく探しても正社員の販売スタッフ、店長候補はとても少なく、パート・アルバイトが中心で、良くて契約社員です。これが普通の光景です。
しかし、よく考えて見るとおかしなことに気が付きます。専門店チェーンなのだから、専門性=個性を持つブランド商品を品揃えし、その個性をお客様に理解していただきながら、お客様の個性を引き出す魅力的なスタイリングの専門的提案をすることこそが“専門店”なのです。今はブランド商品が珍しい時代、憧れであった時代ではありません。ですから昔以上に専門的な知識と経験を持つスタッフがそのバックボーンに基づいた確かな接客をすることが求められているはずなのに、現場を眺めればそのあるべき姿とはまったく逆の素人販売スタッフばかりのお店になってしまっています。
ファストファッション以上の店舗では専門店には服好きのお客様、服にこだわりがあるお客様、髪型+化粧+衣料品+服飾雑貨+自分体型・スタイルすべてにこだわったファッションにこだわりのあるお客様がくるはずです。そのお客様に対して時給○○百円と食品スーパーやコンビニの時給と対して変わらない水準の給与を提示してビジネスを展開しようとしているわけです。これは可笑しな話です。もしも時給がそう変わらないなら、アパレル小売店の業務は“お得”ではありません。
コンビニ・食品スーパーなどではきちんと定義されたシフトコントロールの中で分業化された仕事に取り組めるわけですし、制服貸与、さらにパート社員さんでも従業員販売価格で食品、贈答品などを購入することもできて“役得”もありえるわけですが、衣料品の場合、自ブランドがトコトン好きなら話は別ですがそんなに“お得さ”はありません。
さらにマニュアルやルール、新人の教育体制など未整備なことが多く、そういう環境下でほとんど見よう見まねで努力を続けるか、そういうことは考えず、最低限の販売業務、販売補助業務にだけ取組み時給分だけ給料をもらうというわりきった仕事の仕方を選ばざるをえないというような企業も多いように思います。
そして困ったことに、販売スタッフという大雑把な分類しかない中でキャリアをどう磨けばよいのかを提示できていない企業も多いのが実情です。とにかく売るヒトなのか、売れないヒトなのかの尺度、顧客対応上の問題や販売スタッフのイザコザやチームビルディングの調整が上手か下手かの尺度などで評価されて終わりというような環境が大半です。
しかし本来、専門店らしい提案ができるかどうか、わが社らしい提案ができるかどうかが重要であることは間違いないわけですし、そういう業務に取り組んでいる結果としてお客様から見れば“憧れの販売員さん”という位置づけになるのだと思います。賃金の提示だけではなく販売スタッフとして目指してもらいたい姿やキャリア、将来ステップアップして獲得してほしいスキル、仕事も人生も共に充実させ幸せになっていくための考え方などもセールストーク以上にしっかりと提示してほしいものだと思います。
売り手のワクワクを買い手のワクワクが超えることは稀有だと思います。つまりスタッフがワクワクして販売に取り組まない限り、お客様にはワクワクを提供することは難しいのです。営業時間中、お客様に何を伝え、何に取り組んで欲しいのか、そしてお客様とどういう関係性を構築してほしいのかを自信をもって提示できる王道の専門店らしい企業作りを再度、目指してほしいと願うばかりです。