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レアメタルを制するものが市場を制する! 資源の宝庫、中央アジアは日本にとって遠い存在か

■ EV(電気自動車)にも欠かせないレアメタル

世界の国や企業が興味、関心を高め、その獲得に躍起になっている資源、それがレアメタル(希少金属)です。このレアメタルは話題のEV(電気自動車)のリチウムイオン電池や携帯電話、その他各種エレクトロニクス製品など、現代の基幹産業には必要不可欠な資源です。

『電池覇権-次世代産業を制する戦略』(東洋経済新報社)、『エンジンのないクルマが変える世界』(日本経済新聞出版社)の著者でもある、大久保隆弘教授(立教大学大学院ビジネスデザイン研究科)も、「充電式電池であるリチウムイオン電池など二次電池を巡り、今後、世界各国は激しい覇権争いを繰り広げることになり、その競争の中で日本が生き残っていくためには、レアメタルの安定的確保も必須」と著書の中で述べています。

■ レアメタルの安定した供給先の確保が急務

日本でもここ最近、レアメタル、レアアース(希土類)という言葉が一般に知られるようになってきました。その理由の1つとして挙げられるのが、昨年の尖閣諸島問題に端を発した、中国の日本へのレアアースの輸出規制です。現在、日本で使用されるレアアースの約9割は中国からの輸入に依存していると言われ、その供給がストップすることは日本の産業にとっても大きな問題です。

こうした事態を回避するために、これまで中国へ依存しがちであったレアメタル、レアアースの供給元を他国へも広げていこうと、日本も官民一体となって推進を始めています。昨年発表された、モンゴルからのレアアースの調達や、ベトナムとのレアアースの共同開発もこの取組の一貫です。

■ 石油、天然ガス、レアメタル…、中央アジアは資源の宝庫

これに関連し、カザフスタン、ウズベキスタンといった中央アジア地域の話題もテレビや新聞などで耳にすることが多くなってきました。石油、天然ガス、ウラン、レアメタルなど、中央アジアは世界的にも有数の資源埋蔵国です。

以前の私のコラムでも中央アジアの資源について少し触れましたが、カザフスタンはウランの埋蔵量がオーストラリアに次いで世界2位、石油は世界7位と言われています。また、ウズベキスタン、キルギスといった周辺国も多くの資源がその地下に埋まっています。

また、天然ウランの国別の生産シェアでは、カナダ、豪州を抜いてカザフスタンが28%とトップシェア、ウズベキスタンも第7位につけています。

■ 中央アジアに関心を示す韓国経営者、示さない日本経営者

ただし、欧米や他のアジア諸国と比較すると、まだまだ日本の中央アジア地域への関心はそれほど高くない状況です。日本経済新聞が、日本、中国、韓国の経営者に対して、自社の製品やサービスに有望と考える地域についてアンケートを行った結果、韓国は中央アジア地域を有望な市場として3位にあげたのに対し、日本の経営者は1位が中国、2位は東南アジア、3位は日本、4位は南アジア、5位は北米と、中央アジア市場への興味、関心は相変わらず低いようです。

韓国の経営者が中央アジアを有望な市場の1つと見ている理由として、韓国政府がレアメタル、レアアースの獲得を目的とした資源外交を以前から積極的に推進していることが挙げられます。これに伴い、韓国企業の中央アジアへの投資や産業振興が民間レベルでも活発に行われています。

私が中央アジアのローカル企業への経営支援を始めた2002年、ウズベキスタンの首都のタシケントやサマルカンドの空港では、欧米のビジネスマンに混じって、多くの韓国人ビジネスマンの姿を目にすることができました。空港のVIPラウンジでは、韓国の某自動車メーカーのビジネスマンと中央アジア地域の役人とおぼしき人たちが、真剣に交渉している場面にも遭遇しました。

しかし、一方の日本人は政府関係者や公的機関の人たちの姿が目立ち、商社マンなど一部を除いて、日本人ビジネスマンの姿を目にすることはほとんどありませんでした。今でこそ、アスタナ、アルマティ、タシケントなど各国の主要都市を中心として多少増えていますが、例えばカザフスタンのウラリスクや、昨年の12月に私が訪問した第三の首都と言われているシムケント、ましてや地方都市ではほとんど日本人を見かけません。

■ 世界の関心を高める中央アジア諸国。海外メディアによる報道も活発化

昨年、11月末から12月初旬にかけてカザフスタンを訪問した際、ちょうど56ヵ国が加盟するOSCE(欧州安保協力機構)のサミットが首都のアスタナで開催されていました。カザフスタンが議長国を務めたこのサミットには、米国のヒラリー・クリントン国務長官も出席するとのことで、現地でも海外を含めた多くのメディアが報道していました。

ただし、多くの海外メディアがホスト役を務めたカザフスタンを高く評価していたかというと、必ずしもそうではありません。

例えば、BBC(英国放送協会)では、人権問題、民主化問題など、カザフスタンには多くの憂慮すべき問題があると報道しています。しかし、それと合わせて、豊富な各種の資源を持つ中央アジア地域でのプレゼンス(影響力)を強めつつある中国、ロシアなどに遅れを取ることなく、他の先進諸国も同地域へのプレゼンスを強めていくことの重要性についてもあわせて言及しています。

■ 官民一体となった資源の安定供給への取り組み

それに対して、今回のカザフスタンでのOSCEサミットについての日本での報道は、どちらかというとこの地域の政治体制、人権問題等、ネガティブな報道に終始しているものが目立ちます。

確かに、先日もカザフスタンのナザルバエフ大統領の任期を延長する国民投票の実施を認める案が上院で可決したといった報道や、昨年のキルギスの暴動によるバキエフ大統領の失脚など、この地域が多くの不安定要因を抱えていることも事実です。

ただ、この先、日本産業が発展していくためには、現状では石油、天然ガス、その代替資源となるウラン、レアメタルなどが必要不可欠です。そして、世界を見渡すと、それら資源を保有する国の多くは発展途上であり何らかの問題を抱えている国が多いのは確かです。このリスクから逃げるだけでなく、どう向き合い、安定した資源の確保を実現できるかが日本に課せられた課題となっています。

先にも述べた、モンゴルからのレアアースの調達については、日本はJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が資金、技術などを提供して資源の探査を行うと報道されました。

JOGMECは鉱物資源・エネルギーの日本への安定供給を目的に、経済産業省、金属鉱業事業団、石油公団が2004年に共同で設立した独立行政法人ですが、2007年にもウズベキスタンと石油天然ガス共同事業、ウラン・レアメタル資源の共同調査について、MOU(覚書)を交わしています。これは資源の調査・探査については国が中心に進め、その後の具体的な探鉱開発、安定した供給業務を民間が引き継いで行うというものです。

こういった国、民間それぞれの強みを生かし、官民一体となった仕組みの構築と更なる積極的なボーダレスでの取組が、今の日本には求められていると考えます。

■ 中央アジアの人たちに好かれる日本人

中央アジアという地域は、日本人にはあまり馴染みがありません。しかし、そこに住んでいる多くの人は、日本という国や日本人に対してもてなしの心を持ち、敬意を表してくれることに、時折現地で驚かされます。そして、このことは日本と中央アジア地域の過去の歴史とも深く関係しているようです。

先日、中央アジア地域で大使を務めた経験を持つ方と、お話しする機会がありました。私自身もここ数年間、中央アジアを定期的に訪問するので、その話なども少しさせて頂きましたが、その際、ウズベキスタンの首都、タシケントに建てられているナヴォイ・オペラ・バレエ劇場の話題となりました。実は、この劇場は第二次世界大戦後の旧ソ連から不法に労働力として拘束された日本人抑留者が建築した建物なのですが、その事実は日本であまり知られていません。

シベリア抑留という言葉は、「不毛地帯」(山崎豊子原作)の小説にも取り上げられ、その小説がテレビでドラマ化されるなど一般に広く知られるようになりました。当時、日本人抑留者は、体力的にも精神的にも厳しい環境下で強制労働を強いられ、しかしそういった限界を超える状況下であっても規律正しく、手を抜くことなく素晴らしい仕事をやり遂げ、1947年に劇場を完成させました。不法な強制労働の中でこれだけのものを造り上げることは普通では考えられないことです。

その後、1966年4月にウズベキスタンの首都タシケントで震度8の大地震が発生した際も、このナヴォイ劇場は、びくともしなかったことは現地の人からよく聞く話です。私も実際にこの劇場を見てきましたが、重厚な造りで素晴らしいものでした。

この劇場には、建築した日本人抑留者への感謝の言葉が、日本語、英語、ウズベク語の3言語でプレートに刻まれ、掲げられています。

■ 実は関係が深い日本と中央アジア

抑留という歴史的事実は許されるべきことではありません。しかし、この歴史的事実の中で、中央アジア地域の人々が日本という国、日本人に対して敬意と尊敬の念を抱くようになったこと、そのことがこの地域に親日派の多いという特徴にもつながっているように思います。

厳しい環境下におかれた過去の日本人は、中央アジアという地域にナヴォイ劇場のような目に見えるモノを残しただけではなく、そこで懸命に生きた日本人としての生き様もしっかりと現地の人々の心に刻まれています。そして、彼らが同地域への物理面、精神面に与えた影響は決して小さなものではなく、今だ、中央アジアへ少なからず影響を与え続けているのではないかと思います。

少し話が逸れましたが、今後、日本の企業や投資家にとって、鉱物資源、エネルギーの安定した確保は課せられた命題です。それを進める時、多少でもこの中央アジア地域と日本との接点を知ることで、この地域に興味・関心を持ち、そこからグローバルな視野を拡げていくことも決して無駄なことではないと考えます。

1999年にキルギスで起こった4名の日本人技師の拉致事件は、当時日本でも大きく報道されました。その時、日本人技師と一緒に拉致、拘束されたキルギス人の通訳の方とは偶然にもキルギス、カザフスタンで、今でも一緒に仕事をさせて頂いています。その通訳の方は当時のことを振り返り、「何としても、この日本の人たちを無事に日本の家族のもとに帰したいと思った、私は日本という国が好きだから」といった言葉が忘れられません。
(出典:ダイヤモンド・オンライン)