MENU
×

MENU

コンサルティングレポート第2回 飽和市場で取るべき新規開拓の着目点

前回に続き、コンサルティングレポートの第2回をお届けする。なかなか営業成績が上向かないスズキ電機工業。社長との偶然の出会いから、全6回の「リーダー育成プログラム」を行なうことに決まったが、4回目で早くも軌道修正を迫られた。

各営業所のリーダーは、リーダーの仕事、つまり部下のマネジメントを行なう時間がそもそも取れていないのだ。これでは、リーダー研修をやっても意味はない。さらに営業現場の様子を見ていくと、それぞれが忙しすぎて、新規営業先の開拓にも時間が取れていないことが分かった。

スズキ電機工業は、法人向け電機製品を取り扱う商社で、成熟市場で激しいシェア争いを繰り広げている。飽和市場、成熟市場ということは、すなわち新規顧客の獲得ができなければ、成績は上向かない。筆者は、「リーダー育成」よりも、「新規開拓力の向上」に着目した。

■ 新規顧客開拓が進まない真の理由を解明する

スズキ電機工業の業績低迷の要因として、「新規開拓力の低下」は明らかだった。事実、ほとんどの営業所が目標として掲げている新規開拓件数を大きく下回っているような状況に陥っていた。

よって、鈴木社長に対して新たに提案したのは、「まずひとつの営業所に絞り込んで新規開拓の成功パターンを構築し、それを他の営業所に水平展開していく」というものだった。

すると、鈴木社長は心配そうにこんな質問を返してきた。

鈴木社長 「確かに新規開拓は大きな課題で、ここ数年は我が社に限らず、業界他社も非常に悩んでいるところだと思う。そういう意味では、成功パターンを作るといってもなかなか容易ではない気がするんだけど、何か妙案を持っているのかな?」

筆者 「今のところ、コレという解決策を持っているわけではありません。しかし、現場を回らせていただいた結果、想定している問題は2つあります。1点目は、時間配分についてです。新規開拓強化と言いながらも、多くの営業マンは新規開拓に時間を振り向けていない可能性が高いようなので、活動実態を明らかにしなければならないと思っています。

2点目は、ターゲティングです。新規ターゲットリストを作成しているようですが、営業マンの意識はそのうちどこかが開拓できればラッキーという感じに見えました。このあたりの計画と実行度合いも最初に確認すべきところです」

そもそも新規開拓にかける時間が不足している営業マンと、それなりに活動してはいるものの結果に繋がっていない営業マンに分かれていたので、その原因を突き止めたいという意味でこのように答えた。

鈴木社長 「なるほど。弊社では、毎日提出させている営業日報で、1日の訪問件数と案件が発生した際の製品および想定売上金額を管理しながらやってきました。本来、各営業所リーダーが指導すべき、細かいところまで踏み込んでいくべきだということですね」

筆者 「そうですね。前回も申し上げた通り、営業所リーダーの多くは自分の業績を上げることに精一杯で、個々の営業マンに対する指導が行き届いているとは言えません。よって、今の状況でリーダー育成をしても無駄です。それよりも、新規開拓が進まない真の要因を明らかにすることこそがスタートです」

■ そもそも新規開拓の時間はないし、激しい競争にさらされチャンスは薄い

この取り組みを推進する営業所として、スズキ電機工業のなかでも営業マン1人当たりの生産性が低い方に入る千葉営業所が選出された。

筆者としては、早く成果を出して水平展開の動きにつなげる為にも、比較的業績の安定している営業所でスタートしたい、という考えは伝えたのだが、「千葉は市場も悪くないはずだから何とかしたいし、少々時間がかかっても千葉がやれるのなら自分たちにもやれるはず、という機運が高まるはずだから、千葉でやろう」という鈴木社長の意向を汲むことになった。

千葉営業所は、石井リーダーと5名の営業マンに事務スタッフが2名の体制だ。まず、「新規開拓の時間がない」という2名に話を聞いた。

筆者 「2人は、なかなか新規開拓の時間がとれないと聞いているけど、具体的にはどんな業務に時間をとられているんだろう?」

営業マン 「まず、既存顧客から見積り依頼があったら見積書を作成しなければいけませんし、注文がきたら伝票を作成する必要があります。突発的な注文の場合は、我々が製品を届けるケースも多々発生します。おまけに社内でも、営業本部からはことあるごとに資料の提出を求められたり、日報を記入するにも時間がかかります。もちろん時間ができたら新規開拓活動もやりますが、すぐに話になるケースはなかなかありませんから」

日常の動きを振り返ってもらうと、どうやら午前中は諸々の資料作成で事務作業をこなして、午後は既存客訪問をする、という活動になってしまっているようで、直近1ヵ月の新規訪問件数は僅か2件のみということになってしまっていた。

もうひとつの「新規訪問しても結果が出ない」3名にも話を聞いた。

筆者 「3名は、1日2件~3件の新規訪問をしていますね。なかなか成果が出ていないようだけど、どの辺りが難しいと思っていますか?」

営業マン 「新規ですから、アポイントが取れる可能性も高くないので、飛び込み訪問なども実施していますが、初回訪問以降、なかなか2回目の訪問につながらないのが実態です。すでに必要な製品は他社から購入しているわけですから、仕入れ価格がそれよりも安くなるようなインパクトがないと、今後も難しいと思いますよ。会社の方針だから、何とか頑張ろうとは思っていますが、ハッキリ言って今のままの新規開拓活動はあまり意味がないでしょうね」

初回訪問時には、自社の会社案内と主な取り扱い製品の掲載されたパンフレットは渡しているようだが、大体10~15分で追い返されることが殆どらしい。

■ 営業所に漂う“やらされ感”。新規開拓と言われ闇雲に動く

営業マンの話を聞きながら、「時間がない」グループよりも「結果が出ない」を先に解決する必要があると感じた筆者は、早速鈴木社長と石井リーダーと話をすることにした。

「時間がない」を解決しても、すぐに「結果が出ない」カベに阻まれるわけで、そちらの方がより重要度が高いと思ったからだ。

筆者 「営業の皆さんと話をしました。共通するのは、“やらされ感”です。会社が新規開拓というから、できる限りの活動はするけれども、成果が出ないのは自分達の責任ではない、といった考え方で動いているように感じます。そもそも成功体験が殆ど無いようですから、石井リーダーの成功体験を共有することから始めてみませんか?」

すると、石井リーダーからは予想もしない答が返ってきた。

石井 「言われていることはわかりますが、新規に関しては、自分も数を回っているなかで偶然開拓できたような経験しかないんです。偶然というのは、たまたま今の取引先が粗相したから違う取引先を探すようなタイミングに当たったという感じです」

鈴木社長 「我々も、価格競争を仕掛けられるような体力はないから、数を回りながらチャンスを窺うというやり方がベターだと思ってるんですよ。『時間がない』などと言い訳している方を先に解決して、全社的な訪問件数を上げる方が良いかも知れませんね」

鈴木社長も、成果は偶然の産物のように捉えているようだ。

■ 我が社の新規は競合のお得意先。自社の顧客にするには腕力が必要

「数打ちゃ当たる」は、新しい取引先が次から次に出てくるような成長市場でこそ当て嵌まるもので、成熟市場には難しいという考えに至っていた筆者は質問を続けた。

筆者 「整理したいので、お二人に伺います。ここ数年、新規開拓が難しくなってきたなかで、既存顧客の囲い込みに関しては、かなり注力してこられましたよね」

鈴木社長 「それは、もちろんです」

筆者 「だとすると、それはスズキ電機工業に限った話ではなく、この市場で戦っている競合他社は同じように注力されていると考えた方が良いですね」

石井 「考えた方が良いというよりは、現実にそうしていますね。仕入れ先メーカーも経営を安定させるためには、まず囲い込みを徹底するようなアドバイスをしていますから」

筆者 「そうでしょうね。ではさらに質問しますが、スズキ電機工業が作成している新規ターゲットリストは、スズキ電機工業にとっては新規ですが、競合他社の内のどこかの既存顧客と思って間違いないですよね」

2人とも、頷いた。この質問を通して、2人に伝えたかったのは、こういうことだ。

スズキ電機工業が新規顧客としてアタックする顧客は、競合他社のいずれかにとっては「絶対に競合他社には渡さない」と囲い込みをしている既存顧客であり、それであっても「数打ちゃ当たる」可能性があるのかどうかだ。

鈴木社長と石井リーダーは、しばらく2人で話し込んだあとに、鈴木社長がこう言った。

鈴木社長 「ウチの新規は他社の既存。おっしゃるように開拓には相当な営業スキルを要するのかもしれません。それでもスズキ電機工業を成長させるためには必要不可欠なテーマです。具体的な方法はわかりませんが、何とかならないでしょうか。その方法がもし価格戦争だと言うのであれば、とことん戦える計画を策定し、実行するしかないと思います」

鈴木社長は、営業マンだけに頼っていては埒が明かないとまで考え、本来ご法度の価格戦略の話まで持ち出したようだが、筆者には価格戦略ではない、是非ともトライしてみたいある作戦があった。

それが“狙い打ち”だ。

■ 狙い打ち作戦を実行。営業チーム全員で情報収集

これまでのやり方は、新規ターゲットリストのどれかが当たれば良いという考え方だから、初回訪問をした後、普通でも1~2ヶ月、長いものは3~6ヶ月が経過しないと2回目訪問を行なうことはなかった。

要するに、毎回初回訪問しているのと大差ないような状況で、これで案件が出てきたとしたら、宝くじに当たったようなものだろう。

しかし、筆者の考える“狙い打ち”は違う。

個々の営業マンが「絶対に開拓したい」新規ターゲットを絞り込んで選定する。

そのターゲットに関しては、事前の情報収集を徹底できるし、あらゆるコネクションを探すこともできる。また、いかにして信用を得るのか、いかにして信頼関係を構築できた状態まで関係を築き上げていくのか、にのみ着目しながら、訪問回数を重ねていく。

信頼関係を構築できれば、さまざまな情報を収集することが可能になるため、競合の営業マンができないような提案をすることも可能になる。個々の営業マンの役割は、「信頼関係構築」であり、「情報収集」ということだ。

最終的な提案は、営業所全員の知恵を結集して作り上げる。もちろん、「信頼関係構築」、「情報収集」のステップで躓くことがあれば、それについても全員の知恵を結集して乗り切っていく。

囲い込みに注力する競合の営業マンと同等かもしくはそれ以上の接触頻度をもつための“狙い打ち”が、成果を出せる確率を飛躍的に高めてくれるはずだ。

鈴木社長 「凄く良いと思いますが、随分、時間がかかりそうですね」

鈴木社長はそんなイメージを持ったようだが、それは違う。これらを、いかに短時間でやり切るのかが工夫すべきポイントになる。

(次回に続く)
(出典:ダイヤモンド・オンライン)

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。