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[アキバレポート2]世界はOTAKUをCOOLと言う! アキバ流がこれからの商売の主流になる理由は何か?

前回に引き続き、岩崎剛幸による「アキバレポート」をお届けする。
アキバにある店を分析すると、1つの共通点があるという。
それは、小売店が繁盛する大原則でもあった。

■ アキバ流は他の街にも波及。成功する商売の法則を探る

アキバの持つパワーとインパクトは非常に大きいとは思っていたが、実際に今のアキバを体感するまでは分からなかった。

それが、アキバツアーで今のアキバを見て回ったことで、アキバ=オタクではなく、
アキバは「OTAKU」という新しい価値観を作り出し、
また商売のヒントが山のようにあることを実感した。

ちなみに、オタクはアニメ、漫画、ゲーム、PCなどのマニアのことで閉鎖的な印象を持つ。
一方の「OTAKU」は世界に向けて発信されている日本独特のPOPカルチャー全体を指し、
大衆も楽しめる、明るく健康的な印象持つ言葉として筆者は使い分けている。

そして、市場規模4000億以上(矢野経済研究所「オタク市場に関する調査結果2008」週刊ダイヤモンド 2010/9/25などを参照)
と言われるアキバのパワーが、周辺の他の街にも影響を与え始めていることも、最近の新しい商業施設で感じられる。

アキバ流の商売がこれからの企業経営のポイントになると言える理由とは何か。アキバ流商売の法則を小売店の視点から探る。

■ OTAKUの集まる店は品揃えの深さがCOOL

アキバにはたくさんの魅力的な店がある。その魅力はさまざまであるが、実はある1つの共通項がある。

その共通項とは、「何かの単品で一番の店が多い」ということである。
いわゆるニッチトップ商品。筆者の属する船井総合研究所では「単品一番店」、あるいは「一点突破型店舗」と呼ぶ。

これは今の流通小売業における繁盛店づくりの大原則でもある。アキバは結果的に、圧倒的に独自性を強化した店しか生き残っていないし繁盛していない。

たとえばアキバには次のような店がある。

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これらを見ていただくと前述した内容に納得していただけるだろう。

店舗規模にかかわらず、いずれも何かで一番を目指した店づくりをしている。
アキバを昔からよく知るオタクにとっては珍しい店ではないかもしれない。
しかし、世界中のOTAKUカルチャーが大好きな一般人にとっては、そのいずれもがアキバ以外では見ることができないような圧倒的な独自性を持った店として映るのだ。

「こんなニッチな分野でここまでの品揃えをするのか!?」という品揃えの深さが、アキバ流商売がCOOLとなるポイントなのだ。(参照;「ブランディングナビ」コンサルティングレポート)

■ 圧巻の品揃え。知る人ぞ知る武器屋

前回のアキバレポート1でお伝えしたアキバツアーでも、上記のほとんどの店を視察した。
いずれの店も私たちにとってはかなり新鮮だったが、中でも模造武器店「武器屋」の品揃えは今まで見たことがない店として強烈な印象を持った。

武器屋はメイン道路からすこしはずれた裏道にあった。
店内には100本ほどの刀剣、ピストル、鎧が並び、どこかの本物の武器倉庫に紛れ込んでしまったかのような印象を受ける。
模造武器という通常は目にすることがない品揃えが、店を訪れた客を圧倒する。

もちろんすべての商品が銃刀法を遵守したものであるが、
その精巧なつくりやズシリとした重みのあるアイテムに、本物と見間違うような印象を与える。
同時に、これらの商品を真剣に選んでいる顧客の姿を見て、また我々は驚いた。
皆、買う気満々なのだ。こうしたニッチ商品を買いたい顧客層も世の中には存在するのだ。

同店は男の店という第一印象であったが、男性客:女性客=6:4の割合で、女性客が多いのも特徴だ。
コスプレ好きの顧客の間ではダントツの人気を誇るらしい。
私が見たところでは顧客年齢は20代~50代までと幅広い。
衣装のレンタルも行っているため、パーティーやテレビの撮影などでも使用されることが多いようだ。

また、本格的な模造刀剣の中には20万円以上するものもあり、武道関係者、武具の収集家も来店するという。
またフランスで年に1回行われているジャパンエキスポに参加している最古参の日本企業の1つということもあり、今ではパリに直営店を出すほどの人気を誇っている。

同社の磯野圭作社長は大学でも軍事史を学び、テレビなどの時代考証を開業前から手がけるなど、根っからの武器マニアでもある。

■ 固定客の中の固定客、絶対客という存在

同店は言う。「万人受けする店ではなく1000人の愛好家に買ってほしい」

これを同店では絶対客と呼ぶ。どんなことがあっても他には流れない顧客層という意味であろう。
船井総合研究所ではこのような属性の顧客層を「信者客」と呼び、次のような顧客の4類型により顧客価値を考えている。

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つまり武器屋で言う絶対客のような顧客層は、その生涯にわたって1億円くらいの金銭的貢献を店に対してしてくれるという意味で、
1億円の価値があると私どもでは定義している。

ここで言う1億円や100万円という金額は業種によって異なる。
重要なのはその金額ではなく、固定客と一般客では顧客価値がまったく異なるということである。
企業は移り気な一般客商売ではなく、できるだけ顔の見える固定客づくりに力をいれるべきということを意味している。

このような客層はよっぽどのことがない限り、他ではモノを買わない客層ということで信者客と呼んでいる。
武器屋の客だったら、他の武器取り扱い店では買い物をしないということだ。

このうち信者客と友人客を足したものを固定客と一般的に言うのだが、小売業の場合、1坪(3.3平方メートル)当たり10人の固定客を持つと繁盛するというルールがある。
つまり10坪程度の店であれば100人の固定客、50坪の店なら500人の固定客を作ることが目標となるのである。このくらいの固定客を持つことができれば、どのような立地でも商売はうまくいく。

これは表1に紹介した店に共通するルールである。
いずれの店もなぜ繁盛しているのか。それは、他にはない独自性を持ち、来店される顧客層の琴線にふれる品揃えとサービスで、他ではもう買いたくないレベルまで顧客支持率を上げる努力をしているからなのだ。

またこれはAKB48の総選挙人気でも見てとれる。

AKB48のコアなファンが中心となってAKBファンクラブに入会し、グッズを購入し、CDを大量に購入し、
そして自分達の手で応援してアイドルを育てるというアイドルとの距離感の近さ。
ここにも固定客化づくりの重要性が表れている。

■ アキバには顧客との関係性を築くのが上手い店が多い

アキバという立地は何らかの趣味性、嗜好性、そして蒐集癖のある人たちが集まりやすい街だ。
このような客層にいったん気に入られれば固定客としてずっと付き合ってもらえる。
しかし、中途半端な商売では固定客を作ることは難しい。
だからアキバに店があるだけで商売がうまくいくわけではなく、やるなら徹底的に独自性にこだわった店づくりが必要になるのである。

これからの商売において、顧客との関係性は最重要ポイントである。

いかに顧客とのつながりを作るかがすべての流通小売業において必須の経営テーマとなる。
このような関係作りがとてもうまい店が、アキバには多い。

そして、アキバでOTAKUをターゲットに商売をしている各社は、ターゲティングを自然な形でしている。
顧客との関係性にも商品特性にも気を配り、決して誰でもOKというターゲティングにはしていない。
それが、まさに「単品一番化で他社との優位性を築く」という今の小売店成功のトレンドと合致した。
これがアキバ人気の1つの背景であると私は考えている。

アニメのフィギュア、ロボットショールーム、メイドカフェ、PCパーツ専門店、コスプレショップ、鉄道模型専門店。
業種としてはまったく関連性がないのに、これらがアキバの街に揃うと1つのアキバカルチャーを感じさせる。

そして、一部のマニアだけでなく、いまや、どんな客層が訪れても楽しめる街に変わってきた。
だからこそ世界中の人達がアキバをおもしろいと言い、アキバ文化こそCOOLだと言うのだ。

■ 他の商業施設にも影響を及ぼすアキバカルチャー

アキバカルチャーは秋葉原だけにとどまらず、その勢いは他地域へと拡大している。

4月19日にオープンしたお台場のダイバーシティ東京には、
アキバ名物「ガンダムカフェ」の2号店とガンダムヒストリーが楽しめる「ガンダムフロント東京」がオープンして大変な賑わいとなっている。
また、秋葉原を中心に11店舗を展開するメイドカフェ「めいどりーみん」がショッピングセンターに初進出するなど、
同地区を訪れる外国人観光客にも対応したアキバカルチャーの発信拠点にもなっている。

また5月22日にオープンした東京スカイツリー併設の商業施設、東京ソラマチの4Fにもアキバテイストの店がいくつも入店していた。

「戦国魂 天正記」は戦国武将グッズの店。
「ウルトラマンワールドM78(ウルトラグッズ)」、「元祖食品サンプル屋(食品サンプル)」、「ナノブロックストア(ナノブロック)」、「塩屋(塩の専門店)」など、
これまでの商業施設ではあまり見受けられなかったこだわりの専門店が多数出店していた。

いずれも東京の一等地で展開されている。
しかも2012年の注目商業施設である。その両施設においてアキバカルチャーがでていたことも、OTAKUが一般的に広がっていることの証である。

このようにアキバは一部のオタクのための街や店という域を超えて、新しい日本の文化=OTAKU市場として発展していく要素を持ち合わせている。
一時的な流行ではなく、大きなトレンドとして世の中を変えていくかもしれない。

次回はアキバレポート最終回として、このような流れを作ってきた秋葉原の街、そこに集う人々、そしてOTAKU市場の可能性についてまとめてみたい。

(次回につづく)

(出典:ダイヤモンド・オンライン