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3.11で繁盛店の常識は変わった!? 「ファスト」から「ゆる系」にお客様が殺到するワケ

私は街を歩いてトレンドを掴むという「街歩き」を20年ほど続けています。

街を歩くと何が分かるのか――。

「今」と「ほんの少し先の未来」のことが分かります。

先日、「東京トレンドツアー」という東京都内の店舗視察ツアーを実施し、
定員いっぱいのお客様とともに東京中を2日間かけてバスで巡りました。
東京を自分1人ではなく、目的をもって、
しかもさまざまな業種の企業のみなさまと一緒にまわることは、
新しい気づきや発見が多く、大変勉強になりました。

その視察ツアーを通じて、実感したのが「繁盛店の常識」が変化していることです。
3.11以降、日本人の価値観が変化しつつあるなかで、消費スタイルも急速に変わり始めています。
それにあわせて、人の集まる店にも変化が表れているようです。

そこで今回は、街を歩いて時流を掴むコツと、今の繁盛店にはどんな共通項があるのか、まとめていきたいと思います。

■ 2日で300店舗を周遊! 店舗視察ツアーを「クリニック」と呼ぶ理由

私共ではこの店舗視察ツアーを「クリニック」と呼んでいます。
クリニックとは「診療所」という意味で、弊社の創業者である船井幸雄・最高顧問が名づけました。
いろんな店を見て回ると、自分達の経営にとって必要なことや足りないことなどが見えてくる。
こうした勉強を続けていると、これから何が大事なのかがよく分かるということで、
私共ではクリニックと呼んでいるのです。

私たちのクリニックには、1つの特徴があります。
それは、一度にたくさんの店を見て回るということです。
1店舗にかける時間は短時間です。

これだけではよく分からないというくらいの短い時間で、たくさんの店を見て回ります。
しかし、「それが大事だ」と船井は言います。

なぜなら、それほどの短時間で、繁盛店の特徴を掴むことができるようにならないといけないということ(効率化)と、
たくさんの店を一気に見たときに集まる情報を整理していくと、
本当に必要なことが1つ見えてくる(ルール化)という意味合いを含んでいるからです。

したがって、今回の東京地区クリニックでもたくさんの店を見て回りました。
2日間で300店舗近くは見たのではないでしょうか(参照:「ブランディングナビ」お客様トレンド勉強会。9月よりスタート)。

では早速、それぞれの街の特性と、それぞれの街で人を集めていた繁盛店から見えてきた繁盛ルールをここで整理したいと思います。

■ 東京エリア別「繁盛店ルール」とは何か

今回の東京地区クリニックでは以下の地域を視察しました。

[1]都心の商業立地(銀座、青山、渋谷、赤坂、丸の内など)
[2]準郊外立地(自由が丘、二子玉川)
[3]下町立地(押上、大森)

ここで各地区の繁盛店に共通するものを見てみましょう。

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■ トレンドは「速い」から「ゆる~い」へ!? スピード感が変わってきた東京

東京にはまだまだ他にも注目の街がありますが、今回視察した店だけでも、注目できるポイントがいくつかありました。

私が今感じている、繁盛店とそこに集うお客様の変化は、「スピード」です。
スピード感が以前に比べてゆっくりになっているように感じるのです。

同クリニックの初日は東京の中心部、2日目は東京の準郊外と下町というようにまわりました。
そこから私は次のようなルール化をしました。
418_4

都心立地の商売は基本的にはスピードは速く、効率を重視し、どんどん先へ先へと進んでいく速さが今もあります。
ですから、図表2の都心立地の各要素にスピード感を求める傾向はあるのです。

しかし、この都心立地でさえも、
少しずつですが東京準郊外や下町立地の繁盛店に見られるような新しいお客様の価値観が表れてきているように感じました。

キーワードは以下のとおりです。

● 大から小へ
● 便利さから不便さへ
● 速いスピードからゆっくりしたスピードへ

このような流れが今のトレンドのように思われます。

立地には関係なく、今のお客様に支持され始めている店は、その店の知名度などには表れない、
店主の思いや、やさしさが表れた店であり、その点にお客様が共感しているように感じました。

まさに「ゆる街・ゆる人・ゆる感覚」です。

ゆるーい感じです。この、ゆるーい感じは肌で感じないと分からないかもしれません。
でも確実に時代は、速い感覚からゆっくりとした感じを求めるようになってきています。

■ 足湯のある百貨店で確信! “ゆる感覚”こそが繁盛のカギ

同クリニックで、東京・大森にあるダイシン百貨店に行きました。日本初(?)のシニア向け百貨店です。

ダイシン百貨店は、まさに東京トレンドショップクリニックで感じた時流の先を行くような店です。
建て替え前までは6年連続増収増益を続け、地域でなくてはならない店として地域に密着しています。

同社の経営上の特徴は次のような考え方に表れています。

【ダイシンの経営手法】
1. 半径200メートル圏内・シェア100%をめざす
2. そのためには下駄履きで店に来てもらって、疲れたら休んで、店をみて帰ってもらえるような店にしたい
3. なんだかワクワクするような店を作りたい
4. だから今度建て替えをする
5. 建て替えしたら地域のお客様にもっとくつろいでもらえるような店にしたい

ということで、ダイシン百貨店は今、大幅改築中(2012年春完成予定)です。

本館を閉じ、工事をしながら、隣の別館に集約して商売をしています。
現在の売上は65億円程度(筆者推定値)のようです。
本館もオープンしていた時の年商は100億です。
ピーク時は250億あった売上が、今やその1/4ほどです。

それでも地域のお客様のための憩いの場所になっていればいいというのがダイシン発想です。

その象徴が、今営業をしている別館の一番上、5Fにある「足湯」だと私は実感しました。

屋上庭園の横に小さなカフェがあって、その横に足湯はあります。
10人も入ればいっぱいの足湯。
そこに、買い物を終えたおじいちゃん、おばあちゃん、子どもを連れたお父さんが続々とやってくるのです。
カフェで1ドリンク注文すると足湯に浸かれます。

外が見られるような足湯になっていて、眺めがよく、とても気持ちがよさそうでした。

下の階へ降りると、店内はハワイアンのようなゆったりした音楽が流れています。

そして、今まで見たことがないようなドックフードやキャットフード、
百貨店では決して陳列していないと思われる木魚や簾、その横には家具や家電、
ミセス、シルバーの洋服が並んでいます。

まさに昔の総合衣料品店。

店舗スタッフもゆったりしていて無理やり売り込もうという圧迫感がありません。
なんだか時間が止まっている感じの店です。これがとても心地いいのです。

癒されるとはまたちがうかもしれませんが、ゆったりした気分になって、ちょっと買おうかなという気にさせられます。

取扱い点数130万アイテムというそのアイテム数は、
お客様から欲しいと要望があればすべてそろえるという同社の仕入れ哲学からきています。

まさに効率とは無縁の世界。地域のお客様のために、
非効率でも、喜んでもらえる場を提供しようという気概を感じさせてくれます。

だから2009年まで6年連続増収増益を続けてきたのだと思います。
おそらく改装しなければ、そのまま成長を続けていたことでしょう。
それは、「半径200メートルでシェア100%をめざす」という方針を徹底しているから、に違いありません。

■ 時代は「効率」から「非効率」へ!? 今こそ会社経営のスタンスを決めるべき

ご紹介したように、こんな「ゆったり」感こそが今の時代のキーワードだと思っております。

もちろん企業によっては、速さを求めるところもあるでしょう。
時代はどうあれ、スピードアップして、お客様の求めるものよりも半歩先を提案し続けて、
走り続けないといけない企業もあるかと思います。

それはそれで私はいいと思います。

私が言いたいのは、今こそ会社経営のスタンスを決めるべき時であるということです。
その中で、時代は、確実に、「効率」から「非効率」へ動いています。

私自身は、すでに非効率経営の重要性を認識し、今後10年もそのように動くことを予測して、
非効率へのシフトを進めてきましたし、お客様にもそのように提案してきています。

ただ、業界や企業のポジションによって、また企業のビジョンによって、
とるべき経営のスタンスはちがいます。
その中で自社はどのようなスタンスをとるべきか。
その立ち位置を決めることが非常に重要です。

私は、できるだけゆったりとしたスタンスでも企業として成長をし、
そしてみんなが安定した生活を営めるような仕組みづくりこそが、
これからの本物の経営だと感じています。

今回は私共も、東京のトレンドショップクリニックから、
時代を生き抜くヒントを得ることができました。

ぜひみなさんにもこうした店舗視察を実施していただきたいと思います。
そして、それはきっとこれからの企業経営のスタンスを決めるきっかけやヒントになることでしょう。

(出典:ダイヤモンド・オンライン