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屋上には芝生広場と農園が誕生! 銀座三越リニューアルから占う百貨店業界の今後

■ 百貨店苦境の最中に注目の銀座三越がリニューアルオープン

それは1904年に遡ります。日本のデパートメントストアの歴史は、三越日本橋店のオープンとともにスタートしました。

しかし多くの方がご存知のとおり、今、その百貨店業態が苦境を迎えています。有楽町西武が年内で閉店することを発表したことは有名ですが、それだけに留まりません。松坂屋岡崎店が閉店、松坂屋名古屋駅前店、京都の四条河原町阪急百貨店も先日閉店を迎えました。

テレビのニュースでも「百貨店29ヵ月連続前年割れ」など暗めの報道ばかりです。一体百貨店はどうなってしまうのでしょうか。

そうした懸念が高まる状況の中、久しぶりに百貨店業界を賑わせるニュースが飛び込んできました。銀座三越の増床リニューアルオープンです。9月11日のオープン初日から18万人を超える客数を達成、初日売上高は7億円以上だったといいます。

銀座三越の総投資額420億円、売上目標630億円というこの数字は何を物語るのか。この出店がこれからの百貨店戦略にどの程度意味を持つものなのか。今回は、三越リニューアルの実態、それに呼応した銀座地区の各社の動向から百貨店の今後を占います。

■ 新たなコンセプトは「マイデパートメントストア」

オープン前日、私はNHKの経済ニュース番組「Bizスポ・ワイド」の特集、『銀座三越がリニューアルオープン。百貨店の巻き返し戦略について』にゲストとして呼ばれ、これからの百貨店のあり方について話をさせていただきました。

百貨店の存在意義を考えるためには、「なぜ百貨店が苦境に陥ったのか」を整理する必要があります。なぜなら、日本の消費は確かに厳しい状況ですが、すべての日本人が急速に消費支出を抑え、まったくモノを買わなくなったわけではないからです。

「百貨店の売上は落ちていて、ネットは伸びている」。これが現実です。人がモノをまったく買わなくなったわけではなく、“以前ほどは買わなくなった”程度なのです。

百貨店という「業態」が悪いのでなく、昔ながらの百貨店という「仕組み」が変わっていないことが問題だといえるでしょう。そこにメスを入れようと、各社は新たな戦略を構築し、動き始めました。

リニューアルオープンした銀座三越、通称「ギンミツ」は、今度のリニューアルで「マイデパートメントストアをめざす」と宣言しています。「私だけの百貨店」という意味です。

お客様に「私だけの店」と言ってもらえる店とは、どんな店なのか。銀座という世界でも注目される街のランドマークとして、長年商売をしてきた同店がどのような店に生まれ変わるのか。これは他の立地で商売をしている同業者はもちろん、異業種の方からも注目が集まっていました。

では、銀座三越は一体どんな店に生まれ変わったのでしょうか。

■ リニューアルは単なる増床ではない。既存施設との一体化を実現

同店は、本館裏にある駐車場ビルを新館にリニューアルオープンしました。しかし、それは単なる増床ではありません。総投資額420億という巨大投資は、既存施設との一体化を実現するための投資でもあったのです。そして、以下のような新たな取り組みに着手しました。

(1)駐車場ビルの活用:増床部分は地上12階、地下3階の建物
(2)一体型の開発:トータルで延べ床面積 8万平米以上。本館と新館一体型の開発とする
(3)売り場面積一番店にこだわる:売り場面積36,000平米で銀座・有楽町で一番店
(4)自主編集型MD:ブランド関連に加えて、三越伊勢丹HDが仕入れて販売する売り場、いわゆる自主編集売場を増やす
(5)中国人対応:2階には増加する中国などの外国人観光客向けに観光案内所をおく
(6)銀座テラスの設置:9階に公共の芝生広場や託児所を設置してファミリー層に対応する

新たな取り組みの中でも、同店の最大の特徴といえるのが、「伊勢丹のノウハウが注入されたマーチャンダイジング」です。お客様にとってのマイデパートメントストアづくりを実現するために、同店ではどのようなマーチャンダイジングに力を入れたのでしょうか。

■ 銀座・有楽町No.1を実現する銀座三越のマーチャンダイジングとは

(1)アイテム展開を基本とする

同店は、ブランド展開、いわゆる「ハコ展開(ブランドショップ)」を極力減らし、セレクトショップ的な売り場を増やしました。これは伊勢丹メンズ館でも見られる売り場づくりです。

百貨店と言えばハコ型の売り場づくりが多くなされてきましたが、それはすでに“古い売り場”といえます。ハコ型の売り場が完全になくなっているわけではありませんが、できるだけハコを崩して展開しようという売り場が増えているのが現実です。

ハコ型展開は売り場にとっては管理の面からもメリットがあるのですが、お客様にとっては買いにくいというデメリットがあります。本来はシャツならシャツ、ジャケットならジャケットを同じ売り場内で簡単に複数ブランドを比較できるように陳列すべきです。

しかし、これまでの百貨店売り場では、複数のブランド売り場をまわらなければ比較購買できないという問題がありました。それを変えようとしている売り場づくりがアイテム展開であり、銀座三越はこれを売りにしています。

(2)カスタマイズ売り場、カスタマイズサービスの導入

マイデパートメントを実現する上で欠かせないのは、カスタマイズです。自分だけの商品、私だけのサービスを享受できるかどうかで、「私の店」と思ってもらえるかが決まります。

そのため、今回のリニューアルでさまざまなオーダーを受けられるようになっています。子供服のパターンオーダー、ギフト商品への名入れ、時計ベルトオーダーメイド、各種洋服のオーダーはもちろん、雨傘のパターンオーダーや和菓子のオーダー、精肉のオーダーカットまで、とても細かなオーダーニーズに対応しています。

また、ショッピングナビゲーターというお買い物相談係を設け、お客様のご希望に沿った売り場案内ができるように工夫したり、各売り場でのお買い上げ商品を預かって、それをまとめて駐車場口や地下のサービスカウンターでお渡しするなど、新しいサービスにも力を入れています。

今までの百貨店に対する不満をいかに解消するかも大事なカスタマイズの視点なのです。

(3)銀座・有楽町No.1の売り場づくり

銀座三越の知名度は非常に高く、銀座四丁目の角にあることから利便性も高い店でしたが、これまでの売り場面積23,248平米では、十分にお客様の期待に応えられる売り場は実現できていませんでした。

しかし、今回のリニューアルによって、銀座・有楽町という商圏で一番の売り場面積を持つとになります。そこで、これまで同店ができなかった、各売り場で同地区一番の品揃えを誇る売り場づくりを徹底しています。

特に、強化しているのが婦人雑貨です。衣料品ではなく雑貨に力を入れているのがポイントです。婦人雑貨は基本的にアイテム別に集積し、その売り場面積、展開アイテム数を同商圏内で最大規模にしてオープンしました。

商圏内最大規模を実現させている部門は、婦人靴、婦人靴下、ハンドバッグその他雑貨、化粧品、そして食品の惣菜です。これらは百貨店にとって集客をするうえで欠かせない商品で、他店と明確な差別化ができています。

またジュエリー・アクセサリーは3フロアにわたる構成をとり、もっとも力を入れた部門であることが分かります。食品では和洋菓子部門でも商圏内で最大に近い品揃えを実現させています。

このように、B3F~2Fという百貨店にとっての核となるフロアで、他店を圧倒するMDを組んだというのは、百貨店の売り場づくりとしては原則どおりで、売上実績を上げるためには絶対に必要な判断だったと言えるでしょう。

銀座らしい店づくりを基本に、三越らしい「おもてなし」の要素を取り入れ、同時に伊勢丹の「MD力」を注入する。銀座と三越と伊勢丹の強みをすべて注入した店が今回の銀座三越なのです。

■ 変化し続ける街・銀座で百貨店が繰り広げる生き残り戦略

三越の石塚社長は、記者会見で以下のように述べていました。

「百貨店という業態は終わったのではないかと言われるが、この問い掛けに対する答えを出したい。630億円の売上高目標を上回れば、百貨店のあるべき姿の正解となる」

それがどんな形で表現されているのかに注目し、実際にオープン前の店を拝見してきました。

銀座三越の戦略を語るうえで欠かせないのは、銀座という立地に集まる顧客層の変化と、同業他店の動きです。

まず、銀座の街をどう見るかです。銀座がどのような変遷を辿っているか、ファストファッションの出店、最近増加している中国人観光客の状況などの詳細は、「丸の内ではたらく情熱コンサルタントのブログ」をご覧ください。今回の記事では百貨店を中心にどう変化しているのか整理してみます。

<有楽町>
マルイが20代後半~30代後半女性を集めて成功している。プランタンは10代後半~20代前半女性をターゲットにしたファッションビルへ。

<銀座>
銀座四丁目から新橋寄りは、ファストファッションの出店により、10~20代女性が集まる通りになり始めている。
松屋は総合型。メインは20~30代女性だが60代以上のミセスも多い。もっとも三越とバッティングする客層が集まる店。
松坂屋にはフォーエバー21が出店しており、10月には関西地区で評価の高い「うふふガールズ」がオープンする。ティーンズからヤングに圧倒的な人気のブランドを導入し、ファッョンビル的なリニューアルを強化し20代女性へシフトしつつある。

こうした中で行われたのが、三越のリニューアルなのです。銀座四丁目はこれらすべての客層がぶつかるところ。つまり、20代~30代女性をメインとしながらも、ハイミセス、ファミリー、外国人にも対応する店にしなければならないフルターゲット戦略を求められる立地です。

しかし、それでは店づくりがぼんやりしすぎてしまうので、「20代後半~30代後半の女性」に焦点を当てて店を作り上げたというのが正しい見方と言えるでしょう。

■ 実際に生まれ変わった銀座三越へ! 新百貨店モデルとなりうるか

今回のリニューアルでは、本館と新館を3F以上で完全につなげています。この一体型の開発により、新館の狭さを感じさせないうえ、1フロアの面積が広くなり、買いやすい適度な大きさの売り場を実現させています。

特に、導線の広さは今までにないものです。お客様の歩きやすさを優先して、売り場づくりを行ったことが伺えます。多くのお客様が来店されても、十分にすれ違える導線を確保することは、正統派百貨店としては必須条件だったでしょう。

店は白基調で明るく、ライティングも適度であり、とても洗練されたイメージがあります。吹き抜けもつくり、テラスを広くとり、銀座三越の歴史の中ではじめてレストラン街がオープンするなど、新しい顧客の取り込みにかける意気込みを感じます。

また、今回の店づくりは、若い顧客層を取り込みたいという強い思いを感じます。今までの40~60代のお客様をメインにしていましたが、20~40代のお客様を中心とした店へと変化させ、ターゲットを絞り込んだ店づくりになっていると感じました。

同時に銀座地区で手薄だったメンズに取り組んだことは大きいと思います。新宿の伊勢丹メンズ館のスタイルを踏襲し、メンズまわり(雑貨関係など)を充実させて、さらに洋服もアイテム別や色柄別などで展開するなど、お客様の購買目線に立った売り場づくりをしている点は注目です。

メンズはラグジュアリーイメージで訴求し、レディスは20~30代のセンスのいい女性が行きたくなる空間。特に買いやすさに力点を置いており、お客様に滞留してもらう時間を延ばし、購入単価を引き上げようとする店づくりになっていました。

接客サービスレベルについては、三越流の「おもてなし」を感じました。正統派の百貨店でありながら、今までの売り場づくりの常識を一部崩して、お客様の目線に立って、どう売り場を革新していくか。それが下記の売り場で顕著に見られました。

9Fに設置された「銀座テラス」です。公共広場と言ったらいいでしょうか。建物の内と外で約1,000平米を使って、芝生の公共スペースやオープンカフェ、小さな農園を設置しています。百貨店の屋上に畑がある、しかも銀座四丁目という一等地でここまで贅沢に休憩スペースを使ったのは、今までの百貨店にはない発想です。これがもし売り場として作られていたら、まったくおもしろみがないものになっていたでしょう。

すべてを売り場にして売上を確保するのではなく、いかに多くのお客様に来店していただき、ゆっくりと楽しんでいただくか。ここに今回の店づくりにかけた新しい百貨店づくりへの思いがあるのです。

■ なぜ日本の百貨店は苦境に陥ったのか

ところで、なぜ今回の銀座三越のケースのように、大型投資をしてまで、店づくりを見直さなければならないほど百貨店は苦境に陥ってしまったでしょうか。私は2つの視点から考えなければならないと思っています。

1つは、お客様視点の欠如。もう1つは日本型百貨店モデルという仕組みの問題です。

「お客様視点に欠けていた」

この20年間の百貨店においては、マーケティング力が不足していたと言えます。特に適時・適品・適価ができなかったことが最大の問題です。下のグラフをご覧ください。

これは日本の各家庭で、どんな商品にどのくらいの割合で支出をしているかを示したグラフです。割合が減少している項目の1つは「その他の消費」です。これは交際費、小遣いなどを指します。300円弁当や低価格居酒屋が繁盛しているのは、お小遣いの減らされたお父さんたちの救世主となっているからでしょう。

もう1つ落ちている項目があります。それが、「衣料品(服飾・履物)」への支出です。1990年には7.4%あった支出が、2009年では4.2%に減少しています。

総支出額には大きな変化はないですから、仮に家計消費が1世帯当たり30万円あるとすれば、1世帯で月に2万円以上あった衣料品支出が今では1万円程度に減少しているということです。これは年間にすると20万円以上の支出が10万円へと、およそ半減していることを示します。

百貨店は、この衣料品による売上のウェイトが非常に大きい業態です。ですからこの20年、衣料品への売上依存度の高い百貨店は売上を落としてきたのです。

「日本型百貨店モデルの問題」

高コスト・低収益構造の問題が百貨店にはいつもついてまわります。従来の百貨店モデルでは値入率(売価に対する利幅の割合)が高く、必然的に高価格になっていました。また、売れ筋を追求した結果、商品の同質化が生まれ、店頭の魅力を欠いたことが売り上げ低迷につながっていったと言えます。

■ 変わらなければ生き残れない百貨店が進むべき3つの方向性

そこで、上記のような問題から脱却しようと、百貨店は新しい方向性を見出そうと動き始めました。J・フロント(大丸松坂屋)が「仕組み」作りを変えるのに対して、三越伊勢丹は「店づくり・品揃え」という方向性で変革を図りました。これが両社の戦略の軸となります。

J・フロント(大丸松坂屋)は、低粗利でも集客につながるブランドの導入、お任せ売り場を作ることに力をいれる、いわゆる「新百貨店モデル」づくりです。その一方で利益をだすために業務の効率化と低コスト運営を推し進め、コスト構造を改善するという新しいモデルに切り替えています。

一方の三越・伊勢丹も経費削減は行いつつも、百貨店の原点である「おもてなし」と「MD」(品揃え力)をもとに、自社社員による魅力ある店づくりに力を入れています。

ファッションの伊勢丹と文化・伝統の三越を組み合わせた店づくりが、来春予定されている大阪駅の新店へとつながります。売り場面積5万平方メートルという店舗。ここでも新しい店づくりに取り組む必要があるため、今回の銀座三越のリニューアルは絶対に成功させなければならなかったのです。

今回の銀座百貨店戦争をきっかけに、百貨店各社の戦略は大きく変わっていくでしょう。各社の独自性が出てくるため、お客様にとって店は魅力的になり、目的によって店を使い分けることが進んでいくと思われます。

その意味で今後の百貨店には次の3つの方向性が考えられます。

【3つの方向性】
(1)都心大型店への集中投資(リニューアル、新規出店)が続く
(2)百貨をあきらめ、得意な分野に集中し不動産型店舗へ移行する企業が増加する
(3)ネット対応の強化が進む

そこで重要になのは、変化をしても百貨店というのは夢を売る商売であるということです。ドキドキ・ワクワクするような店でなければお客様はがっかりしてしまいます。

どんな経営手法をとろうとも、お客様に夢や驚きを与えられる店づくりを忘れないこと。これが百貨店復活における最大のポイントです。

いかにお客様と真剣勝負していくか。これからの百貨店には、それが問われています。