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IT業界を理解するための3つのキーワード

はじめまして。船井総合研究所の菊地広記と申します。
今号は私が担当させていただきます。

今回は、IT業界で多用される以下3つのキーワードでIT業界というものを考えてみたいと思います。
■テクノロジー
■ソリューション
■ベストプラクティス

<テクノロジー(技術)>
ITは、””Information Technology””の名が端的に示す通り、技術論として語られることが通常となっています。実際、現在の日本では、CIOというロールが実質的に機能している企業はごく一部に限られ、技術論に終始する担当者とITの理解度があまり高くないマネジメント層との齟齬の中でITが運用されているケースが大半です。
この状況には様々な原因がありますが、その一つに、ITを技術論におとしめている風潮が挙げられます。
確かにITは技術をベースにしています。しかし、同じように技術がベースでありながら、経営に溶け込んでいる分野もあります。
その例の一つとして、金融工学を考えて見ましょう。
その名の通り、金融工学は高度な数学等の技術論を用いて構成されています。
そして金融工学の一例として気象デリバティブがあります。
これは、天候の変化による業績変化リスクを保険的に補填するもので、天候の変化によって来客数が左右されるアミューズメント施設等では一般的になりつつあります。
正直私もその技術論を完全に理解することはできません。
しかし、この気象デリバティブの導入において、マネジメント層が技術論を云々する必要はありません。彼らは、自社の営業戦略、あるいはリスクマネメントにおいて、それが必要か否かを判断するのです。ITも同様ではないでしょうか。ITはあくまで、自社の販売戦略やチャネル戦略などがあり、その戦略を補填する一つの手段に過ぎません。
この議論については、まず戦略の基本中の基本に立ち戻る必要があります。つまり、まずビジネス戦略(顧客への価値の提供と競合優位の確保)があり、次にビジネス戦略を支援するIT戦略(ビジネス戦略のうち、何をIT化すると効果的か)があり、IT戦略を実現する手段として技術があるということを再認識する必要があります。

<ソリューション>
これもIT業界では広く使われている言葉ですが、少々危険な臭いがします。
“”Solution””とは解決策という意味ですが、IT業界では、””ツール等を組合わせたパッケージコンセプト””を意味します。
ソリューションと言えば聞こえはいいですが、多くはITベンダに都合の良いあり合わせの商品組合わせ群を少々加工して体よく表現しているに過ぎません。そもそも我々のような特定商品を持たないコンサルティングでは、ゼロベース思考が基本となります。つまり、何らかのフレームワークありきで考えるのではなく、毎回、自社・競合・市場等の分析を行い、その結果、今回のケースではどのような課題があり、そしてその対策として何が必要かを考えます。対策に至るまでに幾重ものロジックとオプションを検討するのです。対策には何らかの投資が必要であり、その投資から最大限の効果を得るには、前段に””なぜ?””””だから?””を繰り返す、相応の検討が必要なのです。
“”ソリューション(=対策)””ありきで検討するというのは、投資効果を期待するにはあまりにリスキーです。
この議論についても、思考に関する基本に立ち戻ることが肝要です。
つまり、対策を考える前に、ゼロベースで””なぜ?””””だから?””を繰り返し、課題から対策までのロジックを検討するということです。
そして””流行の??を導入したい””⇒””ベンダのソリューションを○×比較””というIT調達の慣習は、即刻見直すべきだと思います。

<ベストプラクティス>
この言葉も、ベストプラクティス、あるいは事例という形で、IT業界では重宝されますが、私としては疑問が残ります。
前段でITはビジネス戦略のためにある、という話をしました。ビジネス戦略の両輪は、””顧客価値の提供””と””競争優位の確保””です。
ここで争点となるのは、””競争優位の確保””です。IT業界では、極端な言い方をすると、ベストプラクティスがある意味神格化
され、我も我も右へ倣えといった風潮になります。しかし、我も我も右へ倣えでは、他社と同じで競合優位にはなりません。
我々コンサルティングの業界でも、ベンチマークという形で他社を参考にロジックを組み立てることはよくありますが、ベンチマークでは、他社ビジネスモデルのCSF抽出を行いはしても、右へ倣えではありません。前段にクライアントの現状分析を行い、他社CSFがフィットするのかを検証し、クライアント独自の戦略に仕立てます。
折角高額なIT投資をするのなら、顧客価値を提供しつつ、競合に打ち勝つための手段として導入するべきではないでしょうか。

以上、これらは全て、業界慣習的な思考の枠に囚われていることが課題です。
一度思考をゼロベースに戻し、IT業界の将来をより良いものにしていただければ幸いです。
(この記事は2008年2月21日に初掲載されたものです。)