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ITの重要性と課題(2)

前回に引き続き、IT投資の課題についてもう少し提起します。
前回は、IT投資に対する経営者の満足感が実は著しく低いこと、そしてその原因は、経営戦略実現の手段の一つに過ぎないITが一人歩きし、まるで新しいことが正しいとでも言うように盲目にテクノロジー追随に邁進していることにあるという話をしました。

■ITが先進的であることが、どれ程経営能力に影響を与えるのでしょうか?

私が今まで見てきたクライアントで、最新のテクノロジーを導入し、「実際に使いこなしている」と捉えたケースはほとんどありません。
例えばCRMツールを導入しているある小売企業では、膨大なカード会員情報から購買履歴分析によって顧客をセグメンテーションしていましたが、その結果はというと、「で、どうしよう?」と思考停止に陥っていました。
最終的に、CRMを利用した精緻な分析のアウトプットに基づくアプローチ戦略云々ではなく、そもそものベースラインとして、販売現場におけるスタッフ間の認識共有のための目標管理制度とそれを支える現場コミュニケーションインフラの構築が先決であるという結論に達しました。つまりこのケースでは、現場における目標共有も徹底されていない状況で、CRMなどを使っても、意志決定に混乱を与えることはすれど、本来的な効果を導き出すことはできていないのです。

あるいは、ある通販業者では、古参のメインフレームを残したままでERPを導入しています。つまり、データ集約を目的としているはずのERPによって、データ拡散を助長していると言えます。
EAIの導入によってシステム間の連動性は確保していますが、根源の情報拡散は継承されたままです。
このケースは、IT自身の能力向上と、ITによる経営能力向上という本来的な目的を混同しているケースと言えます。
経営上の意思決定に必要な「情報(意思決定の判断軸になるもの)」を速やかに解りやすく提供するのが、本来的なERPの存在価値のはずです。
しかし、上記のような状態では、IT部門は努力して、様々な「データ(玉石混合)」を目いっぱい用意しました、あとはユーザの皆様に任せます、頑張ってそこから有用な「情報」を引き出してください、よろしく、と言っているのと同じです。
これでは、先ほどのCRMのケースと同様、ユーザーは情報の海に溺れ、意思決定に混乱を招くだけで、ERPによって経営能力を向上させたと言えるとはとても思えません。

先進的なITツールを導入すれば、先進的な経営能力を獲得できるというのは大きな誤解であり、逆に意思決定を混乱に陥れるリスクと捉えるべきです。
とかくITの利用に関する課題というと、ユーザーリテラシーに焦点が当たり、インタフェースの使いやすさが論じられますが、その前にどのような目的でどのような情報を使うのか、その情報をITに実装することによってどれだけ意思決定スピードを向上できるのか、という論点で考えるべきなのです。
過去、チェスの世界王者に勝利したり、DNA配列の解析に成功したテクノロジーが脚光を浴びましたが、それらは膨大なデータを複雑な計算ロジックを駆使して分析する研究分野においては確かに必要でしょう。
しかし、ERPやCRMなどの経営システムで考えた場合、経営の意思決定に必要なデータとは、新テクノロジーがないと対応できないほど、天文学的に膨大なのでしょうか?
あなたが経営者だとしたら、その意思決定に数百に及ぶ指標を使おうとはしないはずです。
そんなものが揃っても、おそらく意思決定が混乱するだけでしょう。
だとすれば、膨大なデータを処理することができるという新テクノロジーとは、経営において一体何を意味するのでしょうか?
今日のIT投資は、このような基本的な目的論すら忘れ去られている感が拭えません。
あるいはより辛らつな表現をすれば、過去ベンダーが独りよがりに展開してきたソリューションという名の販売商品の不具合を、顧客が高い投資によって尻拭いしてあげているともとれるのではないでしょうか。
今回は皆様と意志の共有を図りたく、再度問題提起をさせていただきました。
次回は、課題解決の方向性について提示したいと思います。
(この記事は2008年7月28日に初掲載されたものです。)