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コンサルティング脳の使い方(10) ~戦略思考の起点~

今回は戦略思考の起点についてお伝えする。業界や業務内容に関わらず、ビジネスパーソンとして必ず身につけておかなければならないスキルの一つに戦略思考がある。皆さんも書店に行けば、このテーマに触れた書籍が店頭に山積みになっているのを見かけたことがあるだろう。

今回は戦略思考の基本の一つである「ハイレベル思考」について述べたい。ここでいう「ハイレベル思考」とは、議論の焦点を、もう一段階上のレイヤーにして考えることを意味する。以下の事例について、皆さんならどのような判断をするか考えてみて欲しい。

<事例>
【業界】小売業
【業績推移】ここ数年間ずっと売上を落としている
【社長からの要望】様々なパターンでチラシを打っているが、その中でも僅かながら他のチラシよりもレスポンスが高いチラシがあるので、そのチラシが当る要因と、それ以外のチラシが当らない要因を分析して欲しい。

さて、皆さんはこの社長の要望に対してどのように対応するか?

社長の要望に対する回答としては、チラシよりも商品、売場、接客、ホームページ、あるいは別の販促手法を見直す方が先だという指摘もできるが、ここではチラシの分析の必要性の有無に限定して考えるとしよう。社長の要望通りチラシの分析を受けるべきか、受けないべきか?社長からの頼みとなるとその場で断れないケースも多いが、スタンスとしては後者が正しい。つまりこの分析は受けるべきではない。理由は、当っているチラシのレスポンス率が特別良いわけではないので、その分析をしたところで大きな成果を生むルールを発見できる可能性が極めて低いからだ。

理由はそれだけではない。そもそも、チラシという打ち手の特性そのものに着目して欲しい。以前、若手コンサルタント達にこんな質問をしたことがある。「戦略系コンサルタントがなぜチラシのコンサルティングをやらないのか?その理由を説明して欲しい」、と。意外としっくりした説明ができる者がいなかったのが残念だった記憶がある。着目して欲しかったのは、「戦略の耐久時間」。別の言い方をするならば、「模倣可能性」。

チラシは模倣性が高く効果的なチラシを作ったとしても効果の耐久時間が極めて短い。長い時間をかけて分析し、チラシの成功ルールを見つけてもその効果は長時間維持できない。したがって、膨大なパターンのチラシのレスポンスデータとその成功要因を分析するよりも、売上を伸ばしている他社のチラシを模倣・アレンジして自社に取り入れる活動を継続する方が良い場合もある。他社から模倣されにくく、少しでも耐久時間が長い打ち手を選び、他社が自社に追いつく頃には自社はさらに一歩先を走っているといった動きに変えることが重要である。

今回提示した事例のように、チラシの分析要求に対して思考の「起点」を分析の必要性の有無を考えることからレイヤーをもう一段高くする。つまり「ハイレベル思考」でチラシという媒体の性質(耐久時間)に着目することで、本当に意味のある打ち手を模索することが重要である。

濱野 雄介
船井総合研究所 プロジェクトマネージャー