MENU
×

MENU

ビジネスにも転換できる天才のアイデア術(手塚治虫の場合)

世界中で大ヒットのディズニー映画『アナと雪の女王』。

海外アニメーション映画として、空前絶後の大ヒットで、
5月末付けでの興行収入は約203億7千万円に達し、
「ハリー・ポッターと賢者の石」を抜いて歴代3位に躍り出た。
因みに歴代興行収入1位は「千と千尋の神隠し」(304億円)、2位は「タイタニック」(262億円)。

興行収入が好調なだけでなく、同アニメのサウンドトラックは6月5日付けで累計出荷100万枚を突破し、
CD販売不況では異例の記録で、且つアニメ映画のサウンドトラックとして史上初である。

この空前絶後のヒットを受け、夏までロングラン・・・と囁かれるほどにいたっている。
と、ここまで『アナ雪』のヒットを紹介してきたが、
本稿執筆時点で、筆者は未だ見ていない……
(現状のディズニーの作画が……個人的な感想は胸にしまっておく。)

なにはともあれ、日本の映画の興行収入の1位と3位がアニメーションという、
いかにもクールジャパンという状況である。
日本のアニメーションは、現在ではジャパニメーションと呼ばれ、
世界中でコンテンツを提供し続けているが、始まりはいつだったのだろう。

日本のアニメの歴史は、WWⅡ以前は短編作品ばかりで、
本格的に長編作品が作られたのは戦後のことである。
そして日本のアニメが本格化したのは、1963年。
日本で最初の本格的連続テレビアニメ『鉄腕アトム』が製作された。
同作品は周知のとおり、マンガの神様、手塚治虫氏の原作であり、
同氏のプロダクションである『虫プロ』の作品である。

手塚治虫氏が何故、天才といわれるのか?マンガ釈明期と
現在の緻密なプロットと作画が求められる漫画界を比較することは難しいが、
明らかに天才を証明する事実がある。

『同時連載7本!!!』

当時はまだ月刊漫画が多かったとはいえ、同時に連載を7本も抱えているなんて、
古今東西の漫画業界でも例がない。それだけアイデアが浮かぶものだと驚愕する。
つまりは手塚治虫氏を天才と言わしめたのは、
アイデアの多さ(作品の多さ)といっても過言ではない。
(勿論、圧倒的なペン入れスピードが備えている。)
同氏のアイデア発想術において以下のように語っている。

「ぼくね、ストーリーに困る人って、信じられないんですよ。」(中略)
「たとえば本棚を見ればね、すぐ出来るじゃない。本の背表紙を三つ選べば、いいんです」(中略)
「それぞれのタイトルから水平思考していって、それをミックスさせてつくっちゃえば、
もう何から発したかもわからないし、それなりの厚みが出るんですよ。」
(大下英治『手塚治虫――ロマン大宇宙』)

こうも簡単に言われると、「それは天才の貴方だけですよ!」と言いたくもなるが、
よくよく読み返してみると、そのアイデアはゼロベースではない。
あくまで過去の作品や現実で起きた事柄をミックスさせて作品を、
アイデアを練りだしているのである。

では、どうアイデアを練りだしているのか?
同氏はアイデアで重要なことは「落ち」と数あるインタビューで述べている。
先述のインタビューでも「背表紙を並べて……」といっているのは印象的なストーリーを組み合わせて
「落ち」を作ることからスタートしている。
そして「落ち」を収束するべく、各作品から詳細ストーリーや設定を採用し、
プロットを練り上げていくのだ。
この工程が同氏の語る「水平思考」と「ミックス」にあたる。
締めくくりに「もう何から発したかもわかんないし……」と述べている。
あくまでゼロベースではないことを認めている。

このアイデア発想術は演繹法と帰納法の組み合わせである。
まさにビジネスでも多用される方法と同じなのだ。
つまり、手塚治虫氏はクリエイターというより、ビジネスマンに近いかもしれない。
ビジネスシーンでは多数のアイデアを効率的に出さなければならない事態に直面する場合が多い。
勿論、出されたアイデアの多数は駄作になるかもしれないが、
良作を生むために駄作を積み上げるしか方法はない。
あくまでアイデアの量こそが、現実的に求められるのだ。
加えて、同氏はこのアイデア発想法に制限を設けて運用し、
効率的に高品質のアイデアを生み出しているのだ。

その制限とは次の2つである。

【1】アイデア発想の時間制限。
【2】スターシステムの採用。

先ず、アイデア発想の時間制限について。
1970年代、「ブラック・ジャック」と「三つ目がとおる」を同時連載している時期に
同氏は時間制限について以下のように語っている。

『ブラック・ジャック』の場合は風呂なんです。
『三つ目がとおる』の場合はトイレ。
『三つ目がとおる』は、話が続いているから簡単なのよ。
トイレに5分入っているとすれば、5分でアイデアが出るというか、でっち上げちゃう。

ところが、『ブラック・ジャック』の場合は起承転結があるから、
それと医者と結び付けなきゃならんから、ちょっと時間がかかる。
だから、風呂に1時間使って考える。(手塚眞『手塚治虫 知られざる天才の苦悩』)

アイデアを構想する際に、時間制限を設けなければ、結局ひとつも完了しないケースが多い。
特に新規事業立案などの重要度は高いが、優先度が低い案件の場合は、
じっくり考えるよりも、アイデアラッシュとして一定時間を設ける方で
遥かに効率がいいケースがある。
だが、ストーリー形式とはいえ『三つ目がとおる』のトイレの5分は流石すぎる。
しかも、でっち上げちゃうとは、実にお茶目である。
ブラック・ジャックの場合は一話完結のオムニバス形式のため、1時間の時間を要するらしいが、
同氏はオムニバスゆえに、一度に4話のストーリーを練りこみ、評価の高い1話のみを採用するらしい。

つまり、1話あたり15分で練りこむのだ。

天才を以ってしても、駄作3話の上に良作の1話を生み出していることになる。
実際は4話創作のサイクルを2回以上するケースもあったらしく、
より多数の話を練りこんでいることになる。
だからこそ、『ブラック・ジャック』は後期作品においても名作になりえたのであろう。

次に設けた制限がスター・システムである。

スター・システム(star system)とは、多くは演劇・映画・プロスポーツなどの興行分野において、
高い人気を持つ人物を起用し、その花形的人物がいることを大前提として作品制作やチーム編成、
宣伝計画、さらには集客プランの立案などを総合的に行っていく方式の呼称。

また、資本力やニュースマスコミを利用した大々的な宣伝の反復などによって、
そのような花形的人物を企画的に作り出すシステムもこの一環として指す。

転じて、漫画などで、同一の作家が同じ絵柄のキャラクターをあたかも俳優のように扱い、
異なる作品中に様々な役柄で登場させるような表現スタイルも、スター・システムと呼ぶようになった。
日本の漫画分野で初めてこの手法を用いたのは手塚治虫であり、
彼が複数の作品のなかで、自らの友人や友人の祖父、
さらには実の妹が描いたキャラクターを登場させたことに始まるとされている。(wikipedia)

『ブラック・ジャック』の様なオムニバス形式では、
それまでの手塚キャラクターがゲストやモブで登場している。

アイデアを練りこむ際に、必ず他作品のキャラクターを登場させることで、
キャラクター登場の因果を調整し、当初のアイデアを崇高な形にブラッシュアップしていくのだ。
この手法は特に商品開発において、よく流用され、
同一ブランドや同一シリーズの商品には共通ディテールを使用し、
商品デザイン(もしくわ機能)をブラッシュアップしてく。

これまでの流れを整理すると、

STEP1 落しどころはゼロベースではなく水平思考。(演繹&帰納)
STEP2 時間制限を設けて、アイデア量を生み出す。(駄作の上の良作)
STEP3 仕様制限を設けてアイデアをブラッシュアップ。(因果関係を付加)

この流れ、まさに、ビジネス的な発想展開である。

流石に手塚治虫氏のように同時展開が不可能かもしれないが、
よりよいアイデアを出すための3ステップといっても過言ではない。
まあ、冒頭でも触れたように同氏の圧倒的な作画能力(質&クオリティ)があるからこそ、
この思考展開が生み出された多数のアイデアが人目に触れたわけだが。

筆者も実行能力を付けないと……と耽ってみるばかりである。

最後に手塚治虫先生の名言
『プロというものは、何も無いところから出さなきゃダメだ。』

あれ……?さすが天才である。