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コンシューマー・マーケット

デスクトップPCの分野で、LenovoがHPのシェアを抜き世界No.1に、そして通信機器の分野では華為が世界No.1となった。家庭用エアコンでは、格力はじめ中国ブランドが不動の地位をすでに築いている。さらに、日本ブランドが、韓国ブランドにシェアを抜かれたばかりの、液晶テレビの分野でもすでに中国のTCL集団がサムスンやLGのシェアを脅かし始めている。このように、中国ブランド企業が世界トップの座を多数占めるようになる時も近いだろう。

しかしながら、中国ブランドが高い地位を占めているのは、いずれも家電の分野である。例えば、世界的に高いシェアをもつ中国のアパレルブランドは存在していないし、生産財の分野では、中国国内で高いシェアを保有しているもののグローバル市場では決して強くないというブランドが多い。建機や工作機械や空圧機器などはその典型的な例であると言える。

家電分野の特徴として世帯への普及率が高く、プロダクトサイクルが短いことがあげられる。家電は単価が下がれば下がるほど、ボリュームゾーンを開拓できる。例えば、一人当たりGDPが3000の国に、1000ドルの家電を販売するのと100ドルの家電を販売するのでは、市場の規模が全くことなる。先進国企業が1000ドルで販売している製品を100ドルで販売すれば、まだ家電が十分に普及していない新興国市場において、1000ドルの家電は購入対象とならないが、100ドルの家電ならば購入できるという層を開拓できるのである。

しかしながら、1000ドルで販売している家電を100ドルで販売することは簡単ではない。そもそも家電は技術革新が早く、プロダクトサイクルが短いために、先進国企業は、新規家電を開発し続けなければ、あっという間に、次世代品で他社にシェアを奪われてしまうため、開発投資が膨らみ続け、1000ドルの家電を100ドルで販売するための活動に経営資源を集中させることはできない。たとえ、100ドルで販売することが可能になったとしても、例えば新興国限定で、100ドルの製品を市場投入したとたん、グローバル市場での価格が引っ張られ、一瞬で価格は世界的に1000ドルから100ドルへと値崩れが開始される。

一方中国の後発企業は、開発投資がかからない組立の分野で多くの仕事を引き受け、生産ボリュームをあげることでユニットあたりの単価を下げることに成功している。そして、中国というマーケットは、世界最大でありかつ、まだ先進国のような早いプロダクトサイクルを求めていないため、低価格品で製造した商品について、自国内での一定の消費量を期待することができる。つまり、最初から、100ドルを前提とした製品開発と生産体制を構築して、市場に投入することができるのである。

このように、家電という製品の価格競争が進めば進むほど、先進国の開発競争が進めば進むほど、中国企業のシェアが高くなるという傾向が続くと思われる。これは従来のサムスンやLGのポジションであり、サムスンやLGにとっては従来型の取り組みから開発投資先行型に切り替えなければならないタイミングであり、開発投資に先行している日本企業から優秀な人材を多数ヘッドハントしつつも、グローバルなサプライチェーン体制を急速に立ち上げている背景をうかがい知ることができる。

日本企業が圧倒的に強みを保有していた複写機の分野も、サムスンの参入によって値崩れが始まっている。この傾向はBtoCマーケットだけでなく、BtoBマーケットにも及び始めている。今後、日本企業がコンシューマー・マーケットで強みを発揮し続けることは難しいだろう。すでにアメリカにしてもヨーロッパにしても、コンシューマー・マーケットで高いシェアを保有する企業は、完全に開発と製造を切り離して、開発投資とマーケティングに経営資源を投入するようになってきている。今後、コンシューマー・マーケットにおいて、日本企業は、グローバル市場でどのように経営資源を分配していくか、どの分野に自国の経営資源を投入していくか、ますます考えなければならなくなっていくだろう。