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売れない理由は価格が高いから? ある商社の“負け犬営業”脱却方法を考える

家電製品に代表されるように、製品のコモディティ化(汎用品化)は加速し、
ハードウェア自体に付加価値がなくなりつつあります。
最先端技術は瞬く間に陳腐化し、製品価格は新発売と同時に価格下落が始まります。
おまけに、少子高齢化で市場のパイ自体が急激に縮小しています。

そんな厳しい環境で、なんとか会社に利益をもたらそうと日々、
売り込みをかける営業マンに、何が有効な“武器”となるのでしょうか。
気合い? 根性? それとも価格?

電気機器を取り扱うある商社では、営業部隊が集まり、
難問解決に向けた答えを見つけようと議論をしています。
果たして、答えは出るのでしょうか。覗いてみることにしましょう。

■ 「競合に勝つためには価格を見直さない限り絶対に勝てませんよ!」は本当か?

「競合他社はどんどん価格攻勢に出てきています。もちろん新規開拓目標に向けて、日々時間を見つけては新規訪問しています。しかし、どの会社の担当者も決まって、『それでオタクで買うといくらにしてもらえるの?』という話になってしまい、そこから先に話が進みません。ウチの会社も、競合他社に勝つためには価格を見直さない限り、絶対に勝てませんよ!」

千葉エリアを担当する営業所長からこんな意見が上がってきました。

この会社は法人向け電器機器を取り扱っている商社で、リフォーム会社や工務店、
あるいは大型商業施設を所有する企業を主要顧客に持つ会社です。
リーマンショック以降、なかなか回復しない日本の経済環境の影響で、ずるずると業績を落としていました。

業界内は、限られた需要のなかでシェアを奪い合う戦いになっており、
価格競争に耐えられる企業が生き残るという体力勝負の様相が鮮明になってきていました。

冒頭の営業所長の発言は、経営幹部に体力勝負の実態を伝えなければならないという、悲痛の叫びだったのかも知れません。
会議には他エリアの営業所長も集まっています。

千葉営業所長の発言を受けて、営業本部長は口を開きました。

「千葉営業所長から上がっている意見に対して何か別の意見はありますか?」

しかし、殆どの所長が押し黙り、「いや、確かにその通り」といった雰囲気を醸し出しています。

「横浜エリアも同じような感じでしょうか?」

営業本部長は少し空気を変えようと、いつも前向きな意見を述べる横浜営業所長に発言を促してみました。

「そうですね。営業本部長の掛け声で始まった新規開拓目標に向けて、当初はメンバー全員でやり切ろうと動いていたのですが、なかなか思ったようには進んでいません。ほとんど成果らしい成果も上げられていないので、最近は『新規は効率が悪いから、時間をかけるだけ無駄じゃないか』といった意見を現場の営業マンが言ってくるようになりました。やはり会社として何か策を与えてあげないと難しいのではないかと思います。そのひとつに価格競争を仕掛けるという選択もあるのかも知れません」

しかし、営業成果が上がらない理由を価格の高さに求め、売るために価格を下げるという施策を取るのは、
利益率を下げることになり会社のためにはなりません。
短絡的に不振の理由を価格に求める営業は、“負け犬営業”だと言われても仕方ありません。

■ 本部長が提示した営業プロセスを見直す3つのポイント

横浜営業所長の意見を聞いた営業本部長が話し始めました。

「皆さんの意見はいったん受け止めます。会社としても『何が起きているのか』という事実を把握した上で対応すべき課題を明らかにしなければならないと思っています。一方で、皆さんにもお願いがあります。もう一度、皆さんの部下の現場営業マンと話をしてきてもらえないでしょうか?」
そう問い掛けながら、以下の3点が示されました。

[1] 本当に価格を下げることで、我々は勝てるのか?
[2] もし価格を下げて勝てるのなら、会社における営業部門の役割、価値とは何か?
[3] そもそも我々は今もたくさんの既存顧客と取引をしているが、そう簡単に競合に奪われてしまうこともないだろうし、価格に対する無理な要求はされていないと思うが、そのことに対してはどう考えているのか?

実に適切な質問です。

[1]は、事実を見極めようという投げかけになります。これまでの営業会議で行われてきた議論は、営業マンの話を鵜呑みにしたまま、意見を意見で取り繕うような議論しかできていませんでした。

「すべての新規ターゲット顧客から価格に対する指摘が出ているのか」
「それはきちんと商談を進めていった上での正式な見積書に対する指摘なのか」

もし、営業プロセスにおけるファーストタッチのような段階での声であれば、
お客さまもご挨拶程度に「今の取引先よりも安くしてくれたら買うよ」位のことは言うでしょう。
よって、「正しい事実を把握する」ことは、会社にとってはもちろん、営業所長や営業マンにとっても大切なことなのです。

[2]は、自分たちの役割を再認識しようという投げかけです。価格を下げれば売れるのであれば、営業部隊など置かずに電話をかけて価格訴求すれば良いのではないか、ということになります。

ところが、そのような作戦に打って出る企業がほとんどいないことからもわかるように、
営業の価値というのは自分たちが認識する以上にあるわけです。
特に商品力による差別化が難しくなってきた今の時代に、営業が果たすべき役割は以前より大きくなっています。

この[2]にも関連する話として、[3]の「すでに付き合ってくれているお客さまが何を評価してくれているのか」というのは優れた問いかけです。

そもそも営業マンは、常にお客さまから問題があれば指摘される最前線で仕事をしているので、
自社の問題点を良く把握している一方で、競合他社の良いところに目が向きがちです。
ややもすると、「競合の商品の方がもっと売れそうだ」といった思い込みを抱く営業マンもいるくらいです。

[3]のような質問に加えて、「我々の会社はお客さまに何を約束している会社なのか」まで明確にすることができれば、「決して価格で付き合ってくれているわけではない」ことを正しく認識することができるのではないでしょうか。

■ 営業現場では幹部会議では見えなかった問題があった

さて、新規開拓の効率に疑問を投げかけていた横浜営業所長が、営業所に戻って現場営業マンと話を始めました。

所長 「営業会議での本部長の話を聞いて、自分自身戻りながら色々考えてみて思ったのは、
価格で取引を奪ったところは当然競合も価格でひっくり返しにくるよね。
そう考えると、既存客と付き合えている理由をもう一度じっくり考えた上で、
同じような付き合い方ができるように新規のお客さまを攻めるってことじゃないかと思うんだけど、皆はどう思う?」

現場営業マン 「理屈はわかりますけど……現実は、なかなかアポもとれません。たとえアポがとれても十分に話をできる時間はもらえない。相手の状況も把握し切れないなかで、既存のお客さまと同じようにと言われても無理がありますよ。」

所長 「そう、それそれ。相手の状況が把握できないってところが問題なんだよね。色々とわかってくれば、我々の会社の自社配送で融通が利かせられるところや、数多くのメーカーとの取引による最適商品の選定、タイムリーな情報提供、事務スタッフの商品知識の豊富さ、競合になかなかできないポイントをアピールできるのにね。」

現場営業マン 「それはそうですが、『最低1日20件訪問』というノルマをクリアしようと思ったら、既存客に時間がかかってしまう分、新規で数を稼ぐ方法じゃないと開拓目標も行動目標も達成できなくなってしまいますよ。」

■ 新規開拓の“ひとまずのゴール”を決めれば、営業マンの行動配分まで決まってくる

営業会議の場であの適切な投げかけをした本部長も、想定できないような問題が起こっていたようです。
営業幹部と営業現場の認識の違いが明らかになってしまいました。
このまま突き進めば、現場営業マンは訪問件数のノルマを追い求めるあまり、
既存のお客さまに対して丁寧な対応ができず、シェアを競合他社に奪われかねません。
営業部隊は空中分解してしまいそうです。

恐らく『最低1日20件訪問』というノルマは、「行動量(新規訪問件数)を稼ぐことで、だんだん質(アプローチ時の会話や提案力)も上がってきて、新規開拓件数が増える」ということを目論んだ訪問目標だったのでしょう。

確かに一定の効果が見込めるケースもありますが、この商社の場合には当てはまらなかったようです。
戦っている市場が成熟市場であり、取引先にも新規参入が殆ど無い状況だということがもっとも大きな理由でしょう。

つまり、こちらが開拓しようと考えている新規開拓ターゲットはどこも競合他社の既存顧客ということになります。
そのようなターゲットに対して、極力時間をかけずに訪問しながら取引のチャンスを窺おうとしても、
なかなか効果が出ないのは致し方ないことかも知れません。

ではどうすれば良いのでしょうか。
改めて作戦を練り直す必要があります。ただ、ここで考えるポイントはただひとつ。
既存顧客との取引を維持・拡大することが重要なのは、誰に指示されずとも営業マンは理解していることですが、
「仮に競合他社に取引を奪われるとしたらそれはどんな時なのか」ということです。

集約すると2つの項目が出てきました。

[1] 受注時や納品時にトラブルを起こした時
[2] 取引先とのパイプを持っている営業マンが競合の担当になった時

この2項目を踏まえてみると、導きだされる有力な作戦の一つが「狙い打ち作戦」です。
開拓ターゲットを絞り込み、そのターゲットに対しては競合を凌駕する動きをとりながら、信頼関係の構築を図るのです。

拙速な“売り込み”ではなく、いったんのゴールを「受注」ではなく「信頼関係の構築」と置き換えることで、
営業活動における時間配分も変われば、訪問した際の振る舞いも変わります。
それが結果として取引につながるというイメージを持った上で動くことが大切だということです。

一方で、「狙い打ち作戦」の候補に入れなかった新規開拓ターゲットに関しては、
単に訪問の足跡を残すような割り切った活動でも構わないという方針も定めました。

ここまで考え方を整理することで、「新規は効率が悪いから意味が無い」などという営業マンのモチベーション低下も防ぐことができます。

営業戦略を構築するときは、営業マンの行動配分まで切り込む必要があります。
この商社の場合は「狙い打ち作戦」が、当面採るべき有力な策であることを紹介しました。

読者の皆様の中に、この商社と同じような課題を抱えている方もいるのではないでしょうか。
売れないからと言って、短絡的に“価格競争”に走らず、先に営業本部長が挙げた3つのポイントをスタートに、組織内でよく議論してみてください。
そうすれば、もしかしたら、この商社のように「狙い打ち作戦」が最適という答えが導き出されるかもしれません。

(出典:ダイヤモンド・オンライン

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。