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“消費者ニーズが多様化している”は本当か? クルマ、衣類の商品コンセプト推移から検証する

■ 日本人は本当に“多様化”しているのか

“多様化”というフレーズが、一般的に飛び交うようになってどのくらい経つでしょうか。

「多様化するライフスタイル」、「多様化する消費者ニーズ」、「多様化する価値観」といったカタチで取り上げられ、それらに対応することが企業の生き残る条件のように言われています。

つい先日も、あるビジネス系のTV番組で若者に人気のアパレルブランド(俗に言う109系)が取り上げられており、「多様化する若いお客さまのニーズに対応する努力を続けているから支持されている」というように総括されていました。

確かに、その企業では「若者の気持ちを理解できるのは同世代の若者」だということで、若手社員をブランド責任者に登用したりしながら、組織を活性化させています。ですが、それが「多様化に対応できている」理由とは思えないのです。

そこには、本当に「日本の消費者は“多様化”しているのか」、という疑問があります。

政治の世界を取り上げてみると、「郵政民営化への賛否を問う選挙だ」という世の中の空気に、自民党が大きく議席数を伸ばすこともあれば、「政権交代」という空気で、民主党が楽々過半数を超える議席を獲得する、といったことが起こりました。

そのこと自体の善し悪しを問いたいのではありません。つまり、ひとつの主張や価値観に世論が大きく引っ張られるような状況に対しては、“多様化”の定義が当てはまらないのではないか、ということです。

今回はこの“多様化”について、いくつかの事例をみながら考えてみたいと思います。

■ バブル絶頂期にもっとも“多様化”していた自動車市場

「“消費者は多様化してる”っていうけど、ことクルマに関していえば、昔の方が個性豊かなクルマがたくさんあったよね」

先日お会いしたある自動車メーカーの幹部の方と話しているなかで出てきたのが、この話題です。例えば、バブル絶頂期。各自動車メーカーには特徴のある車種がたくさんありました。

トヨタ:
「スープラ」(フロントエンジンでリアタイヤが駆動するFR方式、大排気量・ハイパワーのスポーツカー)
「セリカ」:(スポーツタイプの2ドアクーペ、FF版、4WD版があった)
「MR-2」:(ミッドシップにエンジンを積んでリアタイヤが駆動するMR方式の2シータースポーツカー)
「レビン」、「トレノ」:(フロントエンジンでフロントタイヤが駆動するFF方式の軽量スポーツカー)
「セラ」:(ガルウイングドアのFFコンパクトカー)

日産:
「フェアレディZ」、「シルビア」、「180SX」:(FR、スポーツタイプの2ドア車)

ホンダ:
「プレリュード」:(FFの2ドアクーペ)
「CR-X」:(スポーツタイプのFFコンパクトカー)
「ビート」:(軽自動車、MRのオープンカー)

マツダ:
「RX-7」:(ロータリーエンジンを搭載したハイパワーFRスポーツカー)
「ユーノスロードスター」:(FR、2シーターの軽量オープンスポーツカー)

その方と話していたときに上がった車種を書き出してみましたが、上記以外のメーカーも加えるとまだまだ出てくると思います。当時販売台数の多かった車種は「カローラ」、「サニー」、「マークII」、「クラウン」といったノーマルな4ドアセダンタイプでしたし、スキーブームの影響で「パジェロ」、「ハイラックスサーフ」などのクロスカントリータイプの4WDにも人気が出てきている状況でした。

また当時を振り返ると、コンビニエンスストアの雑誌コーナーには、「ドライバー」、「カートップ」といった自動車専門誌が数多く並んでいましたし、TVでは自動車評論家が各メーカーから発売される新型車をレポートするような番組も複数あり、消費者のマインドを後押しするような環境だったと記憶しています。

つまり、自動車業界にとっての“消費者の多様化”という状況は、まさにバブル絶頂の頃に起こっていた状況であり、当時と比べると現在の方がより“画一化”してきているといった方が正しいのかも知れません。

■ もともと“多様化”が前提だったアパレル業界

紳士服、婦人服、子供服、そのなかでもフォーマル、カジュアル、年齢層別、とそもそもアパレルはセグメンテーションを前提としていた市場です。

経済成長期には、大型集客施設として発展する百貨店、GMS等とともに市場を拡大し、バブル期にはDCブランドブームを背景に、丸井やパルコなどのファッションビルとともに数多くのブランドが市場に出てきました。

高級ブランドほどの格はなくても、流行のデザインを取り入れて展開する「ちょっと高級感」のある様々なテイストのブランドが展開され、夏と冬に開催されるバーゲンセールでは、特に都心のファッションビルに長蛇の列ができたのを記憶されている方も多いと思います。

しかし現在は、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングがアパレル業界のトップです。「しかし」というのは、ユニクロはセグメンテーションしない(老若男女、子供、つまり全てがターゲット)、従来のアパレル業界にはなかったコンセプトで登場し、市場を席巻しているからです。

つまり、かつてよりも現在の方が“多様化”しているという議論は、アパレル業界においても決して当てはまるものではないと思うのです。

■ “多様化”ではなく“価値観の変化”

自動車業界とアパレル業界を例にあげながら考えてみましたが、消費者に起こっているのはやはり“多様化”ではないと感じます。時代に関わらず起きているのは、消費者の状況を取り巻く変化であり、それに伴って起きる“価値観の変化”ではないでしょうか。

かつての自動車業界を取り巻く環境を思い出してみて下さい。

1987年、日本人初のF1ドライバーとして中島悟氏がデビュー、またホンダはF1チャンピオンとなります。その後、トヨタはセリカでWRCのチャンピオン、三菱はパジェロでパリ・ダカールラリーのチャンピオンになるなど、モータースポーツブームが起こりました。そういった時代背景の中、「ドライブが趣味」という多数の若者がいて、「クルマが欲しい」、「買うなら○○を買いたい」といったように自動車は趣味性の高いものでした。

その後、携帯電話が一般に普及していく技術革新のなかで、コミュニケーション手段が大きく変わったこと、収入の増加が見えづらい世の中になってきたこと、地球温暖化による気候の変化を目の当たりにする機会が増えたことによる環境問題への意識の高まり、などと環境は大きく変化します。

その影響を受け、自動車は「必要に応じて買う」ものへと変化してきたのではないでしょうか。結果として、代替サイクルは長期化し、市場の拡大はほぼ見込めないなか、自動車メーカーが利益を出すことを考えると革新的なモデルを投入しづらくなる、といった流れが現在の状況を表しているのだと思います。

一方のアパレル業界はどうでしょう。

先ほども触れましたが、ユニクロはセグメンテーションをしないことでターゲットを広くし、あらゆる層に受け入れられやすいベーシックカジュアルを選択。テナントのみに頼らず、単独店舗を積極的に展開することで量をさばくインフラを整え、「安くても品質が良い」ビジネスモデルを作り上げた企業です。

これまでのアパレル業界は、ファッションという読みづらい業界特性、百貨店という委託販売方式の小売が力を持っていたことなどから効率の上がりづらいビジネスでした。

よって、それなりの品質の商品を購入するにはある程度高くても仕方がない、と消費者は思っていた訳ですが、ユニクロの登場で、それが思い込みだったと気づくキッカケになりました。ユニクロ登場以降も、ZARA、H&M、といったファストファッションSPA業態が出てきたことで、その考え方が定着してきたように思います。

これらの企業は、サプライチェーン全体をコントロールするビジネスモデルを構築しているため、製造リードタイムを短縮することにも成功し、結果として流行の読み違いによって起こる機会損失を極小化しています。

一方、従来の百貨店に出店しているアパレルメーカーは、販売量が少なくなっていることからロスを防ぐために生産量を絞り、結果として機会損失が増える、消費者の支持を失う、といった悪循環から抜け出せない状況に陥っています。

つまり、過去からの様々なしがらみがあるが故に、大きな変革ができなかったアパレル業界において、ユニクロが新しいコンセプトとビジネスモデルで風穴をあけた結果、消費者の洋服に対する価格と品質の価値観が変化した、ということではないかと思うのです。

■ なぜ、“多様化”という言葉が使われるのか

自動車市場とアパレル市場を取り上げて、「現在(2010年)よりも以前(1990年頃)の方が“多様化”していたのではないか」という問いかけを前提に話を進めてみましたが、結局それぞれの時代背景からくる“価値観の変化”をどう捉えるかが大切だと思います。

当然、個々人の価値観は異なりますから“多様化”という表現を完全に否定するものではありませんが、それではマーケティングという観点からは捉えづらい(戦略をたてづらい)ものになってしまいます。

消費者の立場に立てば、(自分は他人とは違うから)“多様化”という言葉に違和感はないですし、企業の立場でも、“多様化”という言葉を頼りに、さまざまな商品・サービスを投入したい(大きな失敗を避けたい)という思いが実はあるのかも知れません。

“価値観の変化”は、“時代の変化”といった大きな定義で捉えたうえで、消費者ニーズを洞察していくことが必要なのではないでしょうか。

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。