MENU
×

MENU

住宅は「持ち家」と「賃貸」どちらがお得!? 経営コンサルタントの視点でみるメリット・デメリット

「持ち家と賃貸は、一体どちらが得なのか?」

このようなテーマは特に90年代のバブル崩壊以降、住宅購入のタイミングに差し迫った一次取得者の間で盛んに議論されるテーマとなった。逆に言うと、それまでは不動産の価格は常に上昇し続けるという「土地神話」に、持ち家を推奨する我が国の住宅政策もあいまって、持ち家を持つ事が「当たり前」もしくは「ゴール」として、確固たるポジションを獲得していたと言ってもよいであろう。

その後、20年近く下がり続けている我が国の地価は、このような常識を見直すに十分なインパクトを与えたといえる。持ち家を持った際、この資産デフレをどう捉えるか。当然、立地によっては、経年よる資産価値の低下が少なく、場合によってはキャピタルゲインを得られる不動産もあるが、そのようなケースは極めて稀である。その多くが新築直後から資産価値は目減りし、キャピタルゲインという発想すら用いられることはない。

一方で、賃貸はどうであろう。よく言われるように、家賃はオーナーの収入であり、「お金を払い続けても自分のものにはらない」という論理は、いまだに新築のセールストークなどで良く聞かれる。また賃貸の場合、家賃のみならず、契約更新時に更新料・更新事務手数料、引っ越す場合には敷金、礼金、仲介手数料、及び引越し代など、定期的にかかる費用も少なくない。

さて、リーマンショック後、いまだに先行きの不透明さが拭えない経済状況にある現在、持ち家と賃貸、一体どちらが得なのか、経営コンサルタントの視点から改めて考えてみたい。

■ 「持ち家」も「賃貸」も総コストは大きく変わらない

まず、最初に気になる持ち家と賃貸の総コストの比較についてである。結論から言うと、「総額に大きな差はない」ということだ。

持ち家(分譲マンションを想定)の場合、総コストの内訳は、物件価格に加え、購入の為の諸費用、ローン金利のスプレッド部分(銀行の儲け部分)、毎月の管理費・修繕積立金、毎年の固定資産税・都市計画税、そして専有部のリフォーム費用。ざっとこのようなものが挙げられる。

一方、賃貸の場合は、毎月の家賃に加え、2年毎の更新料、仮に定期的に引越しをするとすれば、その度の引越し費用に加え、敷金、礼金、仲介手数料等がかかる。

これらを50年間のスパンでコストを計算すると、持ち家も賃貸もほぼ同額。もちろん、物件価格及び賃料の水準によって、この値は大きく変動する。しかし、同じスペックの物件を借りるか、持ち家として購入するかという比較論で扱うとすれば、賃料の水準と売買単価の水準は、当然に正の相関があるという点や、賃料も売買単価も景気のファンダメンタルズに対して、同じように一定のボラティリティ(価格の変動幅)が存在するという条件を考慮すると、その時々の相場による得失はあるにせよ、基本的には大きな損得はないと見るのが論理的であるといえよう。

では、それを理解したうえで、我々はどちらを選択すべきなのか。

■ 数字の理論的には「賃貸」が若干お得?

企業のように住宅購入者のバランスシート分析をすると、全額キャッシュで購入した人を除けば、多額の負債を負って資産を膨らませた状態にあるといえる。また、頭金として、これまでの預金を取り崩す形で一定の支出をおこなっているケースが多く、その場合、自己資本も少ない状態にあると見ることができる。しかも資産の部は、その大半を「その住宅」が占める事になり、バランスシート上は、非常に危うい状態にあるといえる。

更に、言うまでもなく住宅は固定資産である。一般的な企業財務分析においても固定資産は曲者だが、その固定資産が大半をしめる資産のポートフォリオは、リスクの変動に対応しきれないばかりか、時価会計の原則に則るならば、毎年その資産価値を目減りさせなければならない。そうすると、目減りの進み具合によっては、負債が資産を上回る、いわゆる債務超過に陥る可能性が高いという分析結果になる。

また住宅購入を1つの投資という観点で捉え、他の株式や債券等と比較した場合はどうだろう。自宅として購入する場合、投資という観点はなかなか持ち難いかもしれないが、入れ替わる事のない入居者(ご自身)が確定している賃貸不動産と捉えると話が見えやすい。

ちなみにGDPの統計においても、持ち家が生み出す付加価値として「帰属家賃」というものを設定し、仮の賃料が計算されている。現在の株式投資全体の(インプライド)リスクプレミアムはだいたい5%程度。リスクフリーレート(国債の利回り)1%程度を加算して、株式投資の期待利回りはおおよそ6%。東証TOPIXのボラティリティが±20~30%、流動性については問題がないとすると、不動産の場合、結論から言えばもう少し高い利回りを期待したいところである。

不動産価格全体のボラティリティは、正確なものは存在しないが、株式と同等、もしくは若干低いとしても、流動性(換金性)は株式に比べ極めて低い。個別的特性が強いため代替性が低く、一般的には買い手が付くタイミングは計りにくい。また仲介手数料を始めとする換金の為のコストも低くはないため、期待利回りは株式投資に比べて高いものを要求せざるを得ないといえる。

そこで、購入する住宅を賃貸すると仮定した場合、自ら払える賃料を仮に設定し、そこから各種コスト(管理費、修繕積立金、ローン、税金等)を全て差し引いたNOI(Net Operating Income)を求めてみるとどうだろうか。NOIを購入価格で割る事で求められる利回り、即ち、キャップレートが最低でも7%以上はなければ、理論的には株式や他の資産に投資した方が合理的という判断ができる。

実質利回り7%というと、3000万円の住宅の場合、NOIが210万円。月額にして17万5000円である。様々な費用を全て差し引いて手元に残る月次のキャッシュが17万5000円の賃貸物件といえば、相当物件ポテンシャルの高いものであろう。普通に考えて3000万円では購入できそうもない。つまり住宅投資において7%~8%の期待利回りの実現は、そう簡単な話ではないのである。

次に、キャッシュフローの観点から考えてみたい。前述のとおり50年間のグロスで見れば、同じと仮定された持ち家と賃貸の総コストであるが、支出のタイミングについては大きな違いがある。

一般的に、持ち家の場合、住宅ローンを支払っている期間は、賃貸より負担が重くなるが、ローン完済後の負担は軽くなる。

賃貸の場合は、50年間一定の支払いを継続し続けるということが前提となるため、老後に向けた貯蓄という観点からみれば、持ち家の人に比べ、あらかじめ早い段階から準備をしておかなければならない。 

前述の「住宅購入は不動産投資」という理論と併せて考えると、持ち家はキャッシュで購入できる人を除いて、他の投資機会を放棄して「住宅」という資産に集中投資をする決断をした事に他ならないのに対し、賃貸は、他の投資機会にチャレンジするチャンスをまだ保有していると状態にあると理解できる。即ち、賃貸を選択した場合、より効率的な投資機会を捉え、チャレンジすることでその優位性を活用すべきと言えよう。換言すれば、賃貸を選択して、浮いたキャッシュ(例えば頭金)を別の投資機会に投資しないということは、持ち家と比較した際の賃貸の優位性の1つを無視しているといえる。

■ 数字の理論を超越する「奥様の声」が反映される住宅購入

さて、ここまでは主に、経済学的、ファイナンス的観点から持ち家と賃貸の比較を行ってきた。条件設定の仕方によるとは言え、数字上は若干、賃貸に軍配があがるのではないかというのが結論である。しかし住宅購入・賃貸の選択は単に数字上の定量的評価で決まるものではない。

現実には、我が国はまだまだ持ち家志向の強い社会であるし、上記のような理論的な説明を理解した人でさえ、それでも持ち家を希望する人が多い。そこには持ち家独特の安心感や社会的信用(世間体)といったものが存在する。賃貸派の人も老後の事を考えれば、持ち家の安心感については魅力的であろう。

また意外に見落としがちなのが、株式投資をはじめとする他の投資と比べて圧倒的に違う点、つまり、住宅購入には「奥様の意思」が強く働くという点である。子どもが誕生し家族が増え、周りの友人が住宅を購入し始めると、前述のような理論的根拠とは関係なく、「落ち着きたい」「落ち着いた場所で子ども育てたい」という希望を持ち始める。好きなタイミングで好きな場所に移動できるという賃貸のメリットとは逆説的な持ち家のメリットであるこの「安心感」は、私たち日本人にとって思いのほか大きいのである。

よって、住宅ローン以外の金融投資にあまりなじめない、興味がない人、または転勤や転職の可能性が低い人、1つの家で落ち着きたい人などは、持ち家の購入をお奨めしたい。その際は、できるだけ割安の住宅を購入するに越したことはない。その意味で、住宅価格は下落傾向にあり、ローン金利が低く、政府の住宅購入支援策も充実している現在は、「いつかは持ち家も持ちたい」と決断している人にとっては、購入するには良いタイミングと言えるであろう。

その際に、できるだけ頭金を多く支払い(金利スプレッドを少なくする)、キャップレート7%以上の物件を獲得できれば、理論上でも持ち家の方がお得と言える。持ち家を購入する場合においても、単に「今の月額の賃料支払いよりローン支払いが安いから」という理由だけで購入するのではなく、このような視点を設けた上で検討することをお奨めしたい。

逆に賃貸を選択するのに適した人は、金融投資で頭金を増やす思考がある人、借金をするのが嫌な人、転勤や転職の可能性が高い人、好きなタイミングで好きな場所に移り住むという自由度に魅力を感じる人などが挙げられるであろう。

その場合、前述のとおり老後の貯蓄を踏まえた、他の資産への分散投資を検討したい。賃貸に住み続けるメリットを十二分に発揮する為には、持ち家と比較した際の「若年時の資金的余力分」をいかに、有効に活用するかという点が大きい。最近また増加傾向にあるというサラリーマン大家さん。自らは賃貸に住みながら、マンションを購入し、他人に貸す。このモデルもまた節税効果といった副次的な効果もさることながら、賃貸を選択するという優位性を活用した1つのモデルケースと言えよう。

さて、皆さんは持ち家と賃貸、どちらを選択しますか。
(この記事は2010年10月25日に初掲載されたものです。)