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「誰もかれも」じゃぁ売れないよ![マーケティング戦略・営業戦略]

(有限会社金森マーケティング事務所 取締役 金森 努)

モノが売れない。不景気で消費者の財布の紐が固くなっただけでなく、その前からとっくに消費は飽和している。そんな環境下では、どんなターゲットを狙っていくのかが極めて重要だ。

ターゲティングがしっかりしていなければ、どんな商品に仕立てていくのか。そしてその魅力をどのように訴求していくのかというポジショニングもあいまいになってしまう。それではモノは売れない。

しかし、今でも時々耳にするのは「ターゲットを絞りすぎては、ヒットする人が少なくなってあまり売れなくなってしまうじゃないか」との論だ。高度成長期の誰もが同じモノを求めて作れば売れた時代ならいざ知らず、消費者ニーズが細分化した今日において、誰からも支持されるモノ作りはもはや幻想だ。

「これなら絶対欲しい!」「これしかいらない!」そんな熱狂的なファンを作って売るモノ作り。多少極端なモノでも、それを買ってくれる人がいればいいではないか。
好例がある。「本棚のついているマンション」。
http://www.ascotcorp.co.jp/hondana/

とかく、収納スペースが居住空間に優先され、物の置き場に困るマンション。それが一般的な商品だといっていい。趣味の道具やコレクションなどを収納するスペースの優先度は極めて低い位置づけとなり、買った本とは次々とブックオフへと涙の別れを繰り返すこととなる。

そのマンションは、玄関を開けると廊下の壁一面に天井までの本棚が作り付けられている。本好きには垂涎だろう。それだけでなく、オーダーすれば他の部屋にもリビングや書斎に作り付けの棚を設置できるという。

ポイントは、そんな本棚だらけのマンションを誰が欲しいと考えるかだ。以下のような記述があった。

<ターゲットは本好き。文化的な暮らしに興味のある人。活字が好きな人。既に月島を気に入って住んでいて、新居を探している人。>

物件の所在地は東京・月島である。

月島・勝どきエリアはかつては下町情緒あふれるエリアであったが、昨今では路地裏から高層マンションを見上げる風景が数多くなった。平成12年に大江戸線が乗り入れし利便性が向上。都心回帰が進み、高層マンションの建設が相次いで街がどんどん変貌を遂げている。

しかし、ファミリーにはもう少し先の豊洲などが人気だ。銀座・東京駅至近の月島エリアは単身者やDINKSに人気である。そんな月島に既に住んでいる人の住み替えを狙っているという。ターゲットは50代以降のDINKS系富裕層、こだわりを優先できる独身男子などではないか。

しかし、年代や家族構成などだけでターゲット設定をしているのではないところがユニークだ。<ターゲットは本好き>と言い切る。

本好きは本を手元に置きたいよな。間違ってもブックオフに売らないよな。でも、置き場所に困るだろう。天井まで蔵書を整然と並べられたらさぞうれしいだろう。そうしてできた物件なのだ。
本好きはどんな行動をするかを想定して、販売促進も展開している。
http://www.ascotcorp.co.jp/topics/09/04/post_85.html

本好きは本屋に行くよな。Amazonとかじゃなくて。というわけで、月島近隣の書店4軒に交渉。「本棚の付いているマンション」のブックカバーとしおりを4ヶ月で各1万部配布する。しおりをモデルルームに持参すれば、本好きが喜ぶ図書カード1000円がもらえる。リターンは通常のチラシより断然よいという。もちろん、図書カード欲しさの来場者も混じる。しかし、それもエリアでのマンション認知度向上に貢献する。

マンション販売は大規模物件でない限り、通常は建設予定地の近隣に、本人か親戚や知人が居住している人が購入する場合が多い。クチコミが極めて重要なのだ。まして、この物件のようにターゲットが絞り込まれていれば、「そういえばあいつ、本好きでマンション探してたよな」と紹介につながるケースも多いだろう。

この物件の販売住戸数は28戸。小規模物件ならではの展開ではあるが、ターゲット像を明確にして絞り込み、ポジショニングを明確にした好例だといえるだろう。マンション不振の昨今、当たり前な物件では苦戦を強いられるのは目に見えている。本棚の付いているマンション、販売はあと数戸を残すのみだという。
(この記事は2009年6月19日に初掲載されたものです。)