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100年に1度の変革のチャンスを捉える

■ 未曾有の変革期

麻生首相は今回の世界的な経済不安を「100年に1度の危機、未曾有(みぞう)の事態」といって、色んな意味で話題となりましたが、読み方の誤りはさておき(笑)、言っている事は正しいと感じます。

例えば、1929年の昭和の大恐慌と比較するとおもしろい共通点を垣間見る事ができます。その数年前、アメリカの1%の富裕層が持っていた資産は、アメリカ全体の6.5%であったのに対し、1929年6月にはその割合が20%を超えていました。2000年頃やはり1%の富裕層が持っていた資産は7%程度だったのに対し、今年7月には21%になっています。「富の極端な集中が大恐慌のキッカケ」といえるのかもしれません。

それらを裏付けるデータについては例を挙げれば、枚挙に遑がありません。株価の下落や、為替の変動もさることながら、上場企業の倒産件数は現状で既に戦後最多(12月2日現在31社)。新卒採用の内定取消し数も、北海道拓殖銀行や山一證券が破綻した97年度末を超える勢いで増えています。一部、新築住宅着工数や有効求人倍率などの上昇が見受けられますが、その裏には、昨年急激に悪化した新設住宅着工数との比較、また「求人を諦めた人の増大による求職者の減少」といったカラクリがあるため、「上昇」そのものに実態を好感できるだけの根拠はありません。

■ イノベーションを生み出す思考法

まだまだ予断を許さない世界情勢ですが、企業経営の観点からこの現状を100年に一度の「危機」ではなく「変革のチャンス」と捉える為には、どのような発想が必要なのでしょう。ここで1つ考えていきたいのが、発展や変革のプロセスについてです。

「変革(イノベーション)」とは今までにない全く新しい発想によって社会や業界に対して大きな変化をもたらすもの、というイメージがありますが、これまでの様々な変革を振り返ると意外にそうであるとはいえません。

その多くが、その時存在した、または過去に存在したモデルの発展・改革である場合が多く、それらを繰り返し発展していくケースが多いのです。田坂広志氏のいう弁証法の法則の言葉を借りるなら「螺旋的プロセスによる発展」で世界は成長しているということです。

例えば通信手段としてのイノベーションの過程を振り返ると、かつては主要な伝達手段であった「紙の手紙」をまず「電話」が大きく凌駕することになりました。電話による、伝達の「迅速性」という最大のメリットが、それを最重要視する時代には大きく支持されたということでしょう。

更に通信手段の主役はその先どうなったかというと、実はまた手紙という手段にもどったのです(紙ではありませんが)。つまりE-mailです。通信技術の発展により手紙という手段が「迅速性」を獲得し、もともと手紙のメリットであった「記録が残る」「ゆっくり考えながら書ける」「なんども読み返せる」などの価値を再度活かせる術を得たのです。

他にも、「オークション」、「集団購入」、またウェキペディアに代表されるような「ボランタリー経済の発展」など、一見すると真新しく見えるこれらのモデルも、そのベースは、資本主義の画一化、大規模化、集中化等の流れに押し流されて消えて行った、過去の古いモデルばかりといえます。

このように考えると変革や進化は直線的でも、一方方向でもなく、まさに螺旋階段を上るように発展していくことがわかります。「進歩・発展」と「復活・復古」が同時に起き、古いものが、新たな価値を伴って、復活してくるというプロセスです。

現在の世界的な金融危機や、経済不安も詰まるところ「合理化」と「効率化」を極めてきた結果だとすれば、電話の「迅速性」のようにその重要度が落ちてきたこれからの未来は、ひとたび消えていった「古いシステム」が新たな価値を伴って復活すると言えるのではないでしょうか。そう考えると、先のオークションやボランタリー経済の発展の根拠が理解できる気もします。

変革は今動いているモデル、過去のモデルの「ちょっとだけ進化」したスタイルで現れる可能性が高い。しかも世界的に経済危機という形で顕在化された資本主義、合理化主義、効率化主義の飽和に直面した今、それらが生まれる素地は整ったといえるのではないでしょうか。

まさに「100年に一度の危機」ではなく「100年に一度の変革のチャンス」なのかもしれません。
(この記事は2008年12月12日に初掲載されたものです。)