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営業コンサルティングレポート! 問題の本質は成績優秀な現場リーダーにあった

仕入れ先の見直しもやった、コスト削減もやった、社員に発破もかけた。
でも、営業成績は上向かない。
それどころか、落ちるばかり――。モノが売れない時代と言われて久しい。
世の中には企業の規模にかかわらず、苦戦を強いられている営業部隊は多い。
そして、その組織を束ねる経営者の悩みはもっと深い。
筆者は、そんな企業の営業部隊を改善するコンサルティングを専門にしてきた。

今後数回で紹介する内容は、筆者がコンサルタントとして関わってきた複数の企業で、
実際に直面した問題とそれを解決していく実例をベースに書いている。
しかしながら、守秘義務があり、実際の企業名は伏せさせていただいた。
そのため、スズキ電機工業という企業名をはじめ、登場する人物もすべて仮名である。
問題点は、多くの企業で共通するだろう。改善方法をぜひ参考にしてほしい。

■ ついに赤字に転落。業績悪化が止まらない

あれは3年前の夏だった。

卸業界向けに「営業幹部の育成方法」というセミナーを実施した日のことだ。
セミナー終了後、参加者の方々とひとしきり名刺交換をするなか、最後に挨拶をしたのが鈴木社長だった。
そして、おもむろにこう話しかけてきた。

「実は折り入って相談があるのですが、少々時間をいただいても大丈夫ですか――」

話を聞いてみると、鈴木社長の悩みは深そうだった。

鈴木社長は、亡くなった先代の後を継いで10年前に株式会社スズキ電機工業の社長となった。
スズキ電機工業は、工場などで使われる制御系の機器、エアコン、照明器具、スイッチ、ケーブル等を取り扱う専門商社として、首都圏中心に事業を展開している。
創業50年を超える優良企業だ。

ピーク時には売上高130億円を達成していたが、ここ数年は業績が下降線を辿っている。
昨年決算では売上高も100億円を割り、ついに赤字に転落してしまったという。

鈴木社長は、打開策として、すでにいくつかの手を打っていた。
例えば魅力のある仕入先を開拓するとともに、成長見込みのない仕入先との取引を止めた。
さらに、採算のとれない営業所を閉鎖した。
力のある若手を積極的にリーダーに登用するなど、営業マンのモチベーション向上施策にも取り組んだ。

しかし、なかなか結果が出なかったという。
営業所を巡回すると、社員は日々忙しく働いていて、士気も高い。
一体、何から手をつけるべきなのか。

そこで、なんとかしようと、知り合いの社長仲間に相談すると、
スズキ電機工業では社員に対して体系的な教育をしてこなかったことに気がついた。営業マン1人当たりの生産性が年々落ちている。

鈴木社長のハラは決まった。

「25拠点の営業所リーダーにマネジメント教育をして、拠点間の生産性のバラつきを改善しよう」

こうして、筆者に声をかけてきたのだという。

■ 現場リーダーの評判も上々。社長以下、全員が順調だと思っていた

月1回で6ヵ月間かけて実施する「リーダー育成プログラム」を提案したところ、
早速始めようということになり、25名のリーダー向け研修は始まった。

3回目の研修を終えたときには、取締役会で研修の実施状況を報告した。
実際に筆者の研修を受けた現場リーダーの方々の評判も良かったようで、
「このまま予定通り、残りのプログラムをやってもらいたい」という事になった。

鈴木社長以下、取締役も、研修を受けていたリーダーも、そして筆者自身も、すべてが順調に進んでいるように感じていた。

しかし、迎えた4回目の研修で、軌道修正を迫られることになってしまった。
そして、これがきっかけで、スズキ電機工業が抱える最大の問題が浮き彫りになった。

■ 若手ホープの言葉をよく聞いてみると…

4回目のプログラムは、「問題解決力をつける」というテーマだった。

「営業所で起きている問題の真の原因を抽出する」というワークショップに取り組んでいたときだった。
数分すると最初に石井リーダーの手が上がった。ワークショップを一番最初に仕上げたようだ。

石井リーダーは千葉営業所に赴任して2年目、年齢は30歳とリーダーとしては若手だが、鈴木社長も高い評価を与えている伸び盛りの営業マンだ。
「さすが若手のホープ」などと思いながら、石井リーダーのアウトプットを確認した。

石井リーダーは、千葉営業所の問題として「新規開拓が進まない」ことを挙げていた。
昨年も60件の目標に対する達成率は10%程度でしかない。
そして、その真の原因は「新規開拓の時間がとれない」ということだと説明してくれた。
解決策は「メンバーに対して新規開拓の時間をとるように指導する」となっている。

しかし、もっと深堀りできそうだ。
筆者は、石井リーダーにさらに突っ込んで質問をしてみた。

筆者 「石井さん、新規開拓の時間がとれない、ということだけど、どういう意味ですか?」

石井 「え? 言葉の通りですよ。営業所のメンバーとは時間が空いたときに随時新規をやろうという話で動いていたけど、結局、時間が空かなかったということです」

筆者 「なるほど。ところで千葉営業所の営業マン1人当たり生産性は決して高い方ではないですが、何に時間をとられているのでしょうか?」

石井リーダーは、しばらく考え込んで、こう話した。

石井 「千葉は、大口の取引先があって、そこからの細かい要望をこなすことに時間をとられるんです。それに、営業エリアも広いので、移動に時間をとられます。営業マンの生産性の低さは、そんなことの積み重ねだと思うんですよね。私も動き回っていますので、実際、逐一営業マンの動きまで確認できないので、あくまでも予想ですけど…」

■ リーダーはマネジメントの役割を果たせていないのではないか

若手のホープで、鈴木社長の評価も高い石井リーダーですら部下の実態を掴めていないとすると、他のリーダーも同じような状況なのではないか。
筆者は、石井リーダーとのやりとりを通じて、大きな違和感を感じざるを得なかった。
もしかすると、部下を指導するという役割を果たせているリーダーが殆どいないのではないだろうか。

もともと、リーダーは全員がマネジメントと営業マンを兼務しているプレイングマネジャーだ。
しかし、プレイングマネジャーとはいえ、部下の営業マンを10名以上抱えているリーダーは、マネジメントにかける時間が多いはずだ。
それ以外の営業所では、部下の営業マンが少ない分、コミュニケーションが取れているはずだ。

しかし、この筆者の考えは、単純に思い込みかもしれない。石井リーダーの話を聞いて、はっとした。

■ リーダーはトップセールスマン。部下を指導することもない

そこで4回目の研修終了後、営業所を営業マンの人数で大、中、小、に分類し、それぞれ2拠点ずつ訪問することを計画し、鈴木社長に打診してみた。

「そもそも今回のご依頼は、リーダー育成のための教育というお話でしたが、リーダーがメンバーに対して日々どう関わっているのかを確認したいので、現場を回らせてもらっても良いですか」

鈴木社長からは「ぜひやってくれ」との快諾をもらったので、
首都圏営業所、多摩営業所、横浜営業所、厚木営業所、川口営業所、千葉営業所と合計6拠点を訪問することにした。

状況は予想通りだった。
● 6拠点すべてで、リーダーがトップの実績を上げている(25拠点すべて同じ状況)。

● リーダーが取引先訪問で直行直帰することが頻繁にある。

● 会社のルールとして営業日報をつけることが義務化されているが、リーダーから営業マンに対するフィードバックは滅多にない。

● 月に2回、営業所内のミーティングが行なわれているが、その内容は「営業所の売上目標に対する進捗確認」「営業部長からの通達事項の連絡」「重点商品の受注状況進捗確認」「実績の上がらない営業マンへの叱責」だけで終了している。

● 日々の営業活動に対するミーティングや指導は実施されていない。

● リーダーの業務は、「リーダー会議出席」「本社への報告書作成」「取引先の与信管理」「仕入先メーカー対応」といった認識で、それらに時間をとられている。

● 営業所の売上目標はすべて本部からの命令で、目標が高すぎるから達成できるわけがないと最初から諦めている。

● 最初から諦めていることもあり、目標を達成するための計画が存在しない。よって、どの営業所も総じて暗い雰囲気になってしまっている。
つまり、リーダーという役職は与えられているものの、仕事の優先順位は、自分自身の個人実績を上げること、リーダーがやると決められている業務をこなすこと、だということになってしまっているわけだ。

また、リーダー自身は、誰に教わることもなく営業実績を上げてきたという自負があるため、営業マンに対しても自らの努力で実績を上げることが当然だと思っている。
仮に、部下を育てようと考えたとしても、何をどう教えてよいのかがわからないし、教えるための時間も無い、といった状況に陥っているようだ。

■ マネジメントスキルの研修は、場合によっては意味が無いことも

これら営業所訪問時に見た実態と、リーダーおよび営業マンから聞き出したコメントをまとめて鈴木社長に報告した。

「当初、リーダーに対するマネジメントスキル強化というお話で始めさせていただきましたが、現在の状況を踏まえると、このまま研修を続けても殆ど効果は出ません。
なぜなら、リーダーはマネジメントに時間を割くことができないからです。
ここでいうマネジメントとは、営業所メンバーの向くべき方向を結集することであり、メンバー個々人の育成を図ること、に集約されますが、それができる状態にないわけです」

少々、ストレート過ぎるかと思いつつ、はっきりと鈴木社長には言うことにした。

「そもそもリーダーの給与が上がるも下がるも、営業所の実績よりも、
リーダー個人の営業実績が反映される部分が大きい、
ということもこのような状況を招いている要因になっているようです。
第3回の研修までの評価が高かったのは、これまで研修する機会が無く、
ただ単に新鮮だったということに過ぎないのだと思います。
リーダーが知らなかった知識を学ぶことがスタートなのだから、
当初の予定通り続けたいというお話ならば、
このまま残っているプログラムを実施させていただきますが、
もしも早い段階での成果を期待されているのであれば、新しい提案をさせてください」

黙って筆者の話を聞いていた鈴木社長が、ようやく口を開いた。

「大変失礼だけど、私はコンサルタントなんて信用していない。コンサルを頼んでいる会社を軽蔑していたくらいなんだよ。自分の会社のことを他人に見てもらって何がわかる、ってね」

鈴木社長とのお付き合いも、これで最後か――。心のなかで、そう思った。しかし、返ってきた言葉は違った。

「コンサルティングを依頼するのは本意ではないんだけど、せっかくだからあなたの提案は聞いてみたい」

■ 個の力を組織の力へと変換するシナリオが重要

スズキ電機工業のような専門商社に限らず、営業力がカギとなる企業は、
営業成績が一番の営業マンを昇進させ、プレイングマネジャーに据えるケースが大半だ。
そのこと自体は否定しないが、一方で、個の力を組織の力へと変換させていくシナリオが構築されていないことが非常に多い。

営業マンの行動量がそのまま成果として表れることが少なくなってくると、このシナリオを持つと持たないとでは組織の成果に大きな差がつく。

次回以降、より具体的な営業組織改善コンサルティングに移る。

(出典:ダイヤモンド・オンライン

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。