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不確実性の高い今だからこそ必須のスキル「産業構造分析」のポイント、お教えします!

本コラムでは、毎週さまざまな業種・業界における、その時々の話題のトピックスを取り上げながら、
各産業界の近未来及び将来性について、コンサルティング現場での肌感覚なども踏まえながらお伝えしてきた。

このような、業界を取り巻く環境を捉え、その構造を俯瞰し、そこから将来の動きを予測することは、
今や我々のような経営コンサルタントという職業のみに求められる能力ではない。

今ほど、社会的にも経済的にも不確実性が高く、先を見据えにくい時代では、
あらゆる企業、そこで働く全ての人々にとって、
「マクロの視点で全体を俯瞰し将来の方向性を予測する」ことの重要性は、日々高まっているといえる。

■ 構造理解はすべての判断の前提。見誤れば致命的な判断ミスとなる

不確実性の高い現代では、次のような思考が今まで以上に求められる。

企業は常に進化を求められる。少し前の成功モデルはすぐに陳腐化し、他社に模倣され、差別化のメリットは消滅してしまう。
進化のオプションの1つとして新規事業開発やM&Aにより事業ドメインを広げることも必要になってくるであろう。
そこでは新しい業界や産業に身をおき、その場で新たな事業価値を創出することが求められる。

営業レベルでみても、営業マンは単なる商品やサービスの特徴や優位性を語るのみでは、もはやその存在意義がない。

自らが所属する企業が、業界の中でどのようなポジションに位置づけられているか、
他社にはない自社独自の強みは何かを理解し、それらを顧客に訴求することで、
無形資産としての人や企業の価値を顧客に感じてもらわなければならない。
その結果として、信頼やロイヤリティを獲得できるはずだ。

営業マンでなくとも、自らの将来のキャリア形成を考えるとき、
自分が勤める企業や所属する業界が将来どうなるか、
明るい展望は描けるのか、有望な業界・産業はどこなのか、
今の成長は一過性のものなのか、ある程度中長期的に続く成長なのか、こうした視点は今の時代に必要である。
これから就職先を決める学生の方々にも同じことが言えるだろう。

誰にとっても、こうした視点は押さえておかなければならない前提といえる。
その前提の捉え方に抜け、漏れがあり不十分であった場合、誤った選択をしてしまう可能性もある。

そこで、今回は、我々が業務上、企業分析や業界分析の際に良く利用するフレームワークを取り上げながら、
業界や産業の構造把握、現状把握を行ない将来の流れを大まかに予測する手法の一部を皆様にお伝えしたいと思う。

■ 企業は取り巻く環境やその構造に依存する

私たちがある事業や企業を分析する際に、最初に見るポイントは、やはりその業界の構造である。
業界の構造が持つ属性によって企業が持つ行動の選択肢と制約は決まる。
そしてその行動によって各社及び業界全体のパフォーマンスが決まる。

業界構造(Structure)が企業行動(Conduct)を決定し、
その個々の企業行動が、個々の企業と業界全体のパフォーマンス(Performance)を決めるという視点を、
産業組織論におけるSCPモデルと呼ぶ。

競争戦略の大家、マイケル・ポーターの理論をはじめ、多くの企業競争戦略の前提にはこのSCPモデルの考え方が根付いている。

そして業界の、特にその競争環境について、
競争の激しさの度合いを測る1つの分析フレームワークとして使われるのが例の「5forces分析」というものだ。

ポーターが、個人、グループ、組織、業界の競争度を上昇させ、企業業績を押し下げようとする5つの力としてまとめたものだ。
すなわち、1.新参入の脅威、2.業界内競合の脅威、3.代替品の脅威、4.供給者の脅威、5.購入者の脅威の5つだ。

これらの5つの視点からどれほどその業界の競争度合いが高いか低いかを、ある程度確認することができる。
5つのうち5つとも「強い脅威」という業界もあれば、強い脅威は1つしか存在しないという業界もあるだろう。

もちろん、それぞれの脅威が大きくなる条件や特徴というものや、競争戦略上その脅威を抑制する障壁の作り方なども存在する。

また、競争構造より更に上位のマクロ環境を押さえる際のフレームワークとして「PEST分析」なども挙げられる。
これは、どちらかといえば、業界を取り巻くマクロ環境を押さえる際に、抜け漏れを防ぐチェックリストのようなものだ。

PESTとは、政治(Politics)・経済(Economics)・社会(Society)・技術(Technology)の頭文字であり、
それぞれの要素、観点から当該業界に与える影響度を大まかに把握するというものである。

■ プロセスごとに分析するバリュー・チェーンモデル

更に、より該当するビジネスの構造に近い、
産業構造や事業構造の枠組みをベースに業界を俯瞰する手法として「バリュー・チェーンモデル」による整理手法が挙げられる。

バリュー・チェーンとは、「価値の連鎖」のことであり、購買した原材料等に対して、
購買物流、オペレーション(製造)、出荷物流 、マーケティング・販売、サービス等の各プロセスにおいて、
価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいた考え方である。

各産業にはその産業独自のバリュー・チェーンが存在する。
そこでは、業界の成長に大きな影響を与えるキープロセスや、逆にボトルネックとなっているプロセス、
またそれぞれのプロセスに参入しているメインのプレーヤーの動向を把握することで、
その産業や業界全体の特徴的な構造を理解することができる。

以上のような5Forces、PEST、バリュー・チェーンなどのフレームワークを利用することで、
およその当該産業の現状及びその構造を理解することが出来るといえる。皆様が属する業界に当てはまると、どのような結果になるだろうか。

■ 業界構造に存在するいくつかのパターン

このような、業界分析を行なうことで、見えてくる各市場・業界の業界構造には、実はいくつかの典型的なパターンが存在する。

パターンを決定づける条件がいくつかあり、実務上、私たちは条件にターゲット業界の現状を照らし合わせる。

例えば、多数の中小企業が存在し、市場シェアが分散化されていて、
主要技術を占有する企業も存在しないような業界は「市場分散型業界」と呼ばれる。
住宅・不動産業界の多くはこの市場分散型業界に位置づけられる。

マイクロプロセッサや半導体などの精密部品業界、パソコン業界、バイオテクノロジー業界など、
技術革新や市場需要の変動、新しい顧客ニーズなどの出現によって、新たに生まれた業界、
またはいったん消えたが復活した業界などは、「新興業界」と位置づけられる。

ファストフード業界などに代表されるような、新しいビジネスのルールが普及し、
技術が競合他社によって拡散し、新製品や新技術の革新のスピードが鈍化しながら、
業界全体の利益率が低下しているような業界は「成熟業界」。
更に業界全体の売上規模が減少し続け、市場の機会よりも脅威が大きくなった業界は「衰退業界」と呼ばれている。

さらに、市場が国内のみならず国外にも広がる業界は「国際業界」、
電話やFAX、パソコン用アプリケーションソフトの業界など、
製品やサービスの価値がそれらの製品やサービスの販売量に依存するような業界を「ネットワーク業界」などと呼ぶ。

「販売量に依存する」とは、例えばこういうことだ。
電話機を所有する人の数がごく僅かな社会の場合、電話機は価値のある製品とは言い難い。
ところが、莫大な人数が電話機を所有するようになると、コミュニケーションツールとしての電話機の価値は劇的に向上する。
FAXやパソコン用アプリケーションソフトも同様だ。

「ネットワーク業界」を換言すれば、このような製品価値とこれまでに販売された製品の数との関係において、収穫逓増の関係が認められる業界と定義することも出来る。

■ さらに重要なのは業界に付随する戦略的機会を理解すること

他にもいくつかパターンは存在するが、これらが業界を定義する際の条件の代表的なものである。
さらに重要なのは、それぞれの業界に付随する戦略的機会(ビジネスチャンス)についての理解である。

「衰退業界」といえば、一見するとそこには戦略的機会が全く存在しないような印象を持たれるかもしれないが、
機会はこの「衰退業界」にも存在する。

衰退期においては、需要減退に伴い生産や流通などで過剰供給能力が生まれる。
よって、需要サイズに応じた業界全体としての生産調整が必要となり、業界再編の流れに拍車がかかる。
その一方で、再編後に効率化できた企業は、むしろ以前より脅威が小さくなるという効果も生まれる。

すなわち、業界の再編プロセスの中で生存確率を高めるには、再編前に業界で市場リーダーの位置を確保することが重要であるといえる。
よって、「衰退業界」においては、「市場リーダーシップ戦略」も重要なオプションであることが理解できるだろう。

他にも、事業範囲を狭く取り特定のセグメントに集中にする「ニッチ戦略」、
ある程度長期の期間をかけてシステマティックな撤退を計画し、
業界の最後の収益を刈り取る「ハーベスト(刈り取り)戦略」、比較的短期で撤退を実行する「撤退戦略」など、
「衰退業界」にもそこに付随する戦略的な機会はいくつか存在するのである。

他の業界パターンにも同様のそれぞれに付随する戦略的機会は存在する。

これらの戦略オプションを踏まえ、当該事業や企業のおかれる業界や市場の基本的な構造や枠組みを理解し、
今後の全体の動向、そして自社(自分)が選択すべき方向性に対して、
目安をつけるということは、極めて重要な視点であるといえるだろう。

これらの視点をベースに、業界のマクロのデータやメインプレーヤーの直近の動向などを収集し、仮説を検証できれば、よりその精度は高まる。

■ 短期の予測や意思決定は現場を見ることが基本

これまで見てきたように、PESTや5Force、バリュー・チェーンなどのフレームワークを用いて、
市場や業界、産業の全体構造を把握し、いくつかの特質を捉えた上で、先の業界パターンに当てはめ、そ
こに付随する戦略的機会を押さえることで、およそ、その業界のマクロ的な現状、将来の動向などを押さえることは可能になるといえる。

しかし、「短期の予測」をおこなうには、これだけでは十分ではない。

それは、例えば、長期的には株価や為替の動きも理論的傾向値に収斂するが、
短期では様々な事情や思惑が絡み合い、その予測は極めて困難であることと同様である。

このような短期の予測については、やはり実際の現場での感覚値を大切にするべきだ。
競合他社の実際の今の現場の動き、お客様の反応、ニーズの微妙な変化、市場価格の変動等、具体的かつ細かな動きをつぶさに観察し、感覚を鍛えていくしか方法はない。

実際に私たちもクライアント企業の今の数字、実態、現場を重視している。

しかし、何の目安や方向性も持たずに現場を見る場合と、長期的なトレンドを踏まえたうえで見る場合とでは、
出てくる答えも全く異なるケースが多い。
例えば、現状が一過性のものなのか、長期的なトレンドを形成した動きなのかの判断が、それにあたる。

2012年もわが国は政治、経済、そして地震や災害リスクも含めて、極めて不確実性の高い1年になるといわざるを得ない。

バブル崩壊以降、あらゆる産業において高度成長期時代に作られた産業構造の転換が叫ばれながらも、
その遅れが顕在化し始めていたわが国は、そこに追い討ちをかけるような形で人口減少、デフレ、地震といった、
自らの力では避けられないリスクに直面することとなった。

この難しい時代の中で、企業も個人も現状をマクロに俯瞰できる力と先を見据える力は、
今後、さらに生き残りをかけた激しい戦いの中で、強く求められる能力の1つであるといえるだろう。

そんなサバイバル手法として、今回のコラムが少しでもお役に立てれば幸いである。

(出典:ダイヤモンド・オンライン