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なぜ宮里藍はモチベーションダウンから復活できたか

■ 2011年の景気は上々でも、企業業績は簡単に好転しない

「今年の特に上期は、景気が良いと思いますよ。」

大手企業トップの方々が、マイクを向けられて語ったメッセージからは、全般的に前向きな雰囲気が伝わってきたといってよいのではないでしょうか。

昨年1月頃は、「もっと円高が進んで、輸出型の企業は厳しい状況になる」、「それにともなって、日経平均はまだまだ下がる」といった論調が多かったように思います。どうやらそうした悲観論も一息ついた状況のようです。

事実、ギリシャの財政破綻危機に端を発したユーロ圏債務危機も、今年に入ってポルトガル、スペイン、イタリアの国債入札が順調に推移していることで、危機拡大の懸念が後退しています。また、アメリカが内需拡大のために減税法案を成立させたことなどが、日本経済にとって良い材料になっていると思います。

ただし、前々回のレポートでも取り上げたように、景気が良ければ自分の会社の業績も好転するという図式が必ずしも成立するとは限らない、というのが昨今の大きな特徴でもあります。

かつての経営環境では、「企業はトップで99%決まる!」と言われてきました。高度経済成長下の日本でも、松下幸之助、本田宗一郎といった後世に名を残す経営者が生まれています。

しかし、現在では「トップが戦略を示し、それを現場が忠実に実行する」だけではなかなか成果につながらないのが状況です。トップの戦略は、必要条件ではあるけれども、十分条件足り得ない状況になった、ということではないでしょうか。

最近、経営課題として、「組織間のコミュニケーション」や「現場の実行力」といったキーワードが目立ちはじめているのには、そうしたことが背景にあると思われます。

今回は、そのなかでも、経営課題の根っこにある社員の“モチベーション”について考えてみたいと思います。

■ 随所に見られる経営層と現場社員の溝

「新しく立ち上げたこの商品ですが、受注までの営業活動が面倒だから、うちの営業スタッフでやる気をもって取り組む人間が少ないんですよ」

東京都内にある商社A社で、営業担当取締役がこう言いました。

この新商品は、これまで顧客のニーズに応じて商品を単品ベースで販売していたA社が、より顧客の深いニーズを探り、案件の規模を拡大させるというもので、1件あたり数千万、ときには億を超えるようなものもあります。

A社にとっても、もちろん営業スタッフにとっても、受注できれば「おいしい」商品であり、単品販売と異なり単純な価格競争にも巻き込まれません。それにもかかわらず、前向きに取り組まないのは、営業スタッフたちの「モチベーションが低い」からだという認識がされ始めていました。

そこで実際に営業スタッフに話を聞いてみたところ、

「やる気はありますよ。仕事も楽しくやってます」

「出世ですか? 給料が上がって良いのかな、とは思いますけど、自分の上司を見ていると社内の調整とか相当大変そうだし、積極的に出世したいとは思わないですね」

「新商品に関しては、正直なところどうやって営業すれば良いのかがよくわからないので自分の実績は上がってないですが、しょうがないんですよ」

と、いった意見となりました。

経営層からみると「モチベーションが低い」という表現になるのに、現場からは「やる気はある」という表現がでてくるところに大きな溝を感じます。これは恐らく、A社だけに起きている現象ではないでしょう。

■ あの宮里藍も経験したモチベーションダウン

昨年ついに米国ツアーで賞金王を争うところまで復活した宮里藍さんですが、実は約3年半もの間、全く勝つことができずスランプに陥り、一時はゴルフを辞めようというところまで気持ちは追い込まれ、モチベーションは地に落ちた状態だったといいます。

詳しくは、米国ツアーに同行取材していた安藤幸代さんの著書『最高の涙 宮里藍との一四〇六日』にも書かれていますので、興味のある方は読んでみていただければと思います。

このことから、改めて気づいたのはこれほどレベルの高い選手でもモチベーションダウンがあるんだということです。

成功された方々の講演をきくと、多くの方が成功のポイントとして自らのモチベーションを上げることの大切さを説き、

「自分の人生の目的を明確に掲げること」
「そのために自分がやらなければならないことを自分で決めること」
「決めたことの達成時期を定めること」

などが要件として挙げられています。私も全くその通りだと思いますが、そこまで高いモチベーションを持っていても、心折れてしまうことがあるというのが当然のことなのです。

そう言えば、管直人総理大臣も最近出演されたインターネット上の番組で、

「過去、自ら辞められた総理大臣の気持ちがわかるようになった」
「こんなに一生懸命やっているのに、なぜ全く伝わらないんだろう、わかってもらえないんだろう、と思うと気持ちが萎える」

と、話をされていました。

“モチベーション”という言葉は、

「現場のモチベーションを上げて、会社を活性化させる必要があります」
「モチベーションを上げるために、評価制度を見直します」

と、大括りに使われていますが、本当に効果を上げるためには、きめ細かい方策を施さなければならないのではないでしょうか。

■ “モチベーション”の状態を定義しよう

以上のように考えると、“モチベーション”は、分解して考えることが必要になります。

<例>
『ハイ・モチベーション』…現在やっている仕事に対して問題意識を持ち、解決策を自ら考え、自ら実行に移せるレベル
『ロー・モチベーション』…上司から言われた仕事を着実にこなすレベル

例えば、このように定義づけすると、「ハイ・モチベーションの状態まで上げるために実行すべき方策」と「ロー・モチベーションの状態まで上げるために実行すべき方策」が全く異なることがわかるでしょう。

A社の話で感じた溝も、「ハイ・モチベーションを求める経営層」と「ロー・モチベーションで十分だと考える現場」といった整理が可能になります。

ここで、ひとつ気をつけなければならないのは、“モチベーション”の話なので、あくまでもそういう意識で仕事をしているのかどうか、ということです。実際にできているのか否かとは切り離して考える必要があります。

宮里藍さんの話に戻ると、復活のプロセスおける重要なポイントは、メンタル面の専任コーチのアドバイスを受けたことだと安藤さんの著書のなかで書かれています。

「出来ない自分に、落ち着いて向き合うこと」
「ゴルフとは、決断し、集中し、スイングする、それだけのこと」

もともと、飛距離を求めて調子を崩し、結果を求めるあまり心が折れそうになっていた宮里藍さんの視点を変えたのが、「勝つ」「飛ばす」といった結果にばかり捉われるのではなく、「どんな意識で試合に臨むのか」、「どんな意識でスイングするのか」という気持ちに対するアドバイスだったのでしょう。

「なぜこの程度の仕事ができないんだろう」と悩む若手社員。
「なぜ自分には部下がついてこないんだろう」と悩む管理職。

ビジネス面でも自分自身で求める結果が得られないことで、モチベーションまで落としてしまう例も数多くあります。

まずは「結果ではなく、意識だ」ということを十分認識することが大切です。

■ 高まるミドルマネジャーの役割

このように考えると、現場の“モチベーション”を高めるためにもっとも重要なのは、現場を管理するミドルマネジャーの役割です。

頑張れば結果がついてきた時代は、「何やってんだ、もっと頑張れよ!」と発破をかけているだけでも業績は上がりました。結果が出るということは、やったことが報われたことになりますから、現場の“モチベーション”はそれで維持することができました。

しかし、現在は頑張っても結果がついてこない時代です。結果が出ないのに、「もっと頑張れ」と言われ続けると、“モチベーション”はどんどん低下します。

これからのミドルマネジャーがとるべきマネジメントのスタイルは、部下の能力を把握するとともに、部下自身にもそれを客観的に把握させることを前提にして、

「その能力を最大限発揮できるように、“モチベーション”を維持すること」
「その能力をさらに高めるために努力すべきことをアドバイスすること」

この2つを分解し、具体的な実行策に落とし込んであげることが重要だと思います。

その結果、80点以上の社員をいつも褒めるのだけではなく、50点の社員が55点になったときにそれを気づいて褒めることのできるマネジャーが揃えば、きっと現場の力はさらに高まるのではないでしょうか。
(出典:ダイヤモンド・オンライン)

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。