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なぜディズニーランドはマニュアルがなくても成功できるのか

■ マニュアル接客は悪なのか?

少し前の話(3年くらい前の話だと記憶していますが)になりますが、こんな話があったのをご記憶の方もいらっしゃるかと思います。

買出しを頼まれた1人の男性が、あるファーストフードのハンバーガーショップに行きました。

男性:「ハンバーガー20個ください。」

店員:「かしこまりました、ハンバーガー20個ですね。店内でお召し上がりになりますか?」

男性:「テイクアウトで。」(1人で来てるんだから、テイクアウトだってわかるでしょう…)

ということで、実際にこの話が事実なのか否かはわかりませんが、「マニュアル接客の弊害」といったテーマでマスコミにも結構な頻度で取り上げられていました。

では、本当に“マニュアル”が悪いのでしょうか?

チェーン展開しているハンバーガーショップの多くがお客さまに何を約束しているのかを考えてみて下さい。

<日本全国どこの店舗で食べても「同じ味」であり、「同じ価格」であること>

これが大きな安心感につながっています。

また、ファーストフードと呼ばれる業態ですから、「スピード」(注文して商品が出てくるまで)は不可欠な要素でしょう。

つまり、お客さまとの約束を果たすために大切なことは、「業務の卓越性」(オペレーショナルエクセレンス)を発揮することであり、このような業態の企業にとってマニュアルは必要不可欠な経営ツールだという主張のほうが正しいようにも思えます。

あえて誤解を恐れずに極論を言えば、ハンバーガー20個を注文した1人のお客さまに対して「店内で…」と対応したところで、あるいは、たとえスタッフの笑顔が無かったとしても、それだけでお客さまを失ってしまうほどの悪影響は受けないのではないかと思います。

では、なぜマニュアル接客は揶揄されることが多いのでしょうか?

■ マニュアルを必要としないディズニーランド

お客さまに対して感動を提供した数々の逸話を持つディズニーランドは、すでにご存知の方も数多くいるでしょうが、マニュアルの存在しない企業です。

マニュアルであの対応は実現できない、という意見ももっともですが、一方で時給およそ800円のアルバイトスタッフがそれを支えているというのは驚くべき事実です。

ディズニーランドが現場スタッフに示しているのは“SCSE”という価値基準であり、そのままの優先順位で業務を考えることが要求されます。

342_3なぜディズニーランドはマニュアルがなくても成功できるのか

この優先順位に基づいて、各部門のスタッフは自分たちで考えて行動を決めていきます。

<清掃部門>
「お客さまがジュースをこぼしたとき、どんな姿勢で拭けば良いのかな?」
「普通に腰をかがめて作業すると、視野が狭くなって危ないかもしれないね。」
「やはり安全性を第一に考えると、立ったまま足で拭く方が良いと思う。視野も確保できるし。」

<お土産ショップ>
「たくさん買ってくれてるお客さまの為に、買い物カゴを設置した方が良いんじゃないかな。」
「でも、混雑してるときは、たくさんのお子さんもいるから、ぶつかる危険があるよね。」
「安全性を考慮すると、買い物カゴは設置しないことにしましょう。」

■ マニュアルの問題点とは従業員の“思考停止”を導くこと

とはいうものの、マニュアルを導入すること自体が悪いわけではありません。多くの場合、マニュアルは「当然」レベルを達成するための最低基準に過ぎないのですが、それを認識せずに「マニュアル通りやれば大丈夫」という間違った運用をしてしまうことが問題なのです。

342_4なぜディズニーランドはマニュアルがなくても成功できるのか

ここでの“間違った運用”というのは、「顧客との関係構築」をお客さまとの約束にすべき業態の企業が接客対応部分をマニュアル化してしまうことを指しています。

例を挙げてみましょう。

<自動車ディーラーのケース>
自動車ディーラーにおいては、既存顧客のフォローを重視するあまり、新規来店客に対する対応が十分できていない状況が見受けられ、マニュアル化されるケースが多くみられます。

新規来店客からの受注フローを整理すると以下のようになります。店舗あるいは個人でバラつきが出るのは「アンケート獲得/来店」率の部分で、それ以降の「HOT/アンケート獲得」率、「成約/HOT」率は比較的安定しています。つまり、販売台数は「アンケート獲得/来店」率をいかに高めるかが非常に重要な要素となるのです。

342_5なぜディズニーランドはマニュアルがなくても成功できるのか

実際、マニュアル通りの丁寧な挨拶「いらっしゃいませ」、来店動機を探る「本日はどのようなご用件でお越しいただいたのでしょうか?」という対応をしている店舗ほど「アンケート獲得/来店」率が低いという結果が出ていました。なぜなのか要因を調べてみると、最初の段階での丁寧な対応が逆にお客さまの緊張を助長し、「カタログもらったらすぐに出よう」という行動を導いてしまっていたのです。

一方、数字の良い店舗では、「そもそもアンケートを獲得しない限り、営業できる機会が無くなるので何としても獲得しよう」と、マニュアルには捉われずに、お客さまの気持ちになってどんな対応をすればお客様がリラックスでき、親近感を持ってもらうことができ、気持ちよくアンケートにも応じていただけるのか、を考え抜いた対応に変えていました。

「お客さまの車が駐車場に入ってくる段階で、お店から飛び出していって大きな声で誘導する」誘導が終わったら、「お客さま、いらっしゃいませ。お約束であれば担当を呼んできますので、お名前を頂戴できますか」といった声掛けをしながら、初期段階でなるべく多くの会話をする。

といった工夫をすることで、率の低い店舗では50%程度の「アンケート獲得/来店」率を、90%以上という高さまで持っていくことに成功していたのです。

同じような事例は、アパレル業界にもあります。洋服を買いに行く機会があれば、誰でも耳にする言葉として、「いらっしゃいませ。どうぞお試し下さいませ」という決まり文句があるかと思います。皆さんは、いつもどう感じているでしょうか。

自動車ディーラーのような数字をとることは(来店数もかなり多いため)難しいですが、マニュアル的な声掛けやファーストアプローチで、嫌気が差して帰ってしまっているお客さまを数多く見かける気がしますし、「自分もそんな経験がある」と思われる方も多いでしょう。

アパレルにおいても、お客さまの気持ちになったときに見直すべき対応を考え抜いていくと、様々な改善ポイントが出てきます。

決まり文句をどこかに向かって唱えるのではなくて、個々のお客さまそれぞれに対して「何かお聞きしたいことがあれば何でも尋ねてくださいね」という気持ちを込めながら、それを態度で示しながら声を掛ける。

商品の裏側まで探ってようやく見つかるようなプライスカードでは決して十分とは言えないため、しっかりと目立つところに表記するよう工夫する。

年齢、立ち止まって見ているコーナー、手にとった商品、などから、どんな声を掛けることが自然で、どんな情報を提供することがお客さまの「もっと話聞いてみたい」につながるのか、をスタッフ全員で考え抜いて実践する。

このような工夫の積み重ねが、大きく業績を動かすきっかけになるのです。

すでに申し上げた通り、マニュアルがあることが悪いわけではありません。それによって起こる“思考停止”が問題なのです。「スタッフ同士の私語は慎むこと」とマニュアルにあったときに、単に私語をしないスタッフと、「なぜ私語は慎まなければならないのか」→「私語をするとお客さまの印象が悪くなる」→「印象をよくするためにすべき行動は何か」といった流れで考え抜くスタッフでは全くお客さまからの印象が異なることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

「“脱マニュアル”でお客さまに楽しくお買い物をしていただく――」

小売業と呼ばれる業界に携わっている方々に今一度真剣に取り組んでいただきたいと心から思っています。

川原 慎也
株式会社船井総合研究所 上席コンサルタント
経営者・幹部様向け/攻めるPDCAマネジメント・顧客満足度アップ
外資系自動車メーカーにて営業、マーケティングなどを経験したのち、1998年船井総合研究所に入社。年商1兆円以上の大手企業から社員3名の零細企業に至るまで、企業規模や業態を問わず幅広くコンサルティングを行っている。 PDCAを切り口に現場の行動に変化をもたらし、企業を新たな成長のステージへと導くコンサルティングが近年高い評価を獲得。