久木田 光明(2011/12/26)
早いもので今年も年末を迎えた。今回は毎年恒例の来年2012年における住宅・不動産の「買い時診断」を行なってみたい。
振り返れば、2010年後半から住宅の「買い時感」は高まりつつあった。低金利が続いている上に過去最大の住宅ローン減税、贈与税非課税枠拡大などの政策効果で、3大都市圏を中心にマンションや戸建ての販売が回復。
ここ数年、苦境に立たされていたマンションデベロッパーも都心部を中心に素地取得の動きを再び活発化し始めており、2011年は住宅市場の回復がより鮮明なものになるというのが、大方の予測であったのだ。そんな折、発生したのが3月11日の東日本大震災だった。
■ 3.11東日本大震災の影響はどれほどあったのか?
実際、この東日本大震災は住宅市場にどのような影響を与えたのだろうか。一般的には、震災以降の住宅需要は急激な冷え込みにより供給が悪化したとのイメージがあるが、実際のデータを見るとそれらを裏付ける数字はあまり見えてこない。
もちろん、震災直後しばらくは湾岸の高層マンションや海抜の低いエリアにおける住宅需要が減退したことは事実だ。しかしながら、図1の通り、供給そのものは震災以前と以後ではそれほど大きく変わっていないのである。

むしろ6月以降は再び供給数が拡大傾向にあり、7月、8月は久しぶりに(約3年ぶり)月次の新設住宅総計が2ヵ月連続で8万戸を超えた。
これらにはいくつか要因が考えられるが、購入者の立場からみれば、震災による住宅購入に関する心理的買い控え以上に、住宅ローン減税や低金利といった住宅投資を取り巻く有利な経済的環境が強かったといえる
さて、前述のような前提を踏まえ、2012年は住宅・不動産の購入を考える上で、その「買い時感」はどのように見ることができるだろうか。言うまでもなく住宅・不動産の買い時を判断することは簡単なことではない。長期のトレンド、短期のトレンド、エリアや物件の種類によってもその最適タイミングは異なると考えられる。
今回はマクロの視点を重視し、2012年に住宅・不動産購入を考える上で注目すべき3つの視点について見ていきたい。
■ 2012年金利の動向は格付け会社の日本国債の格付け動向に注目
1.金利の動向
震災以降も住宅投資が底堅く推移してきた背景には「極めて低い金利」の影響が大きい。長期固定金利、変動金利ともに2009年から2010年にかけて低下を続け、特にフラット35を始めとする住宅取得専用の長期固定金利は、2000年代半ばの水準まで低下した。2010年2月から導入された、フラット35S(優良住宅取得支援制度)については、借入金利を当初10年間、年率1.0%引き下げる支援策も導入している。
金利の今後の動向については、変動金利は日銀の政策金利に、固定金利については、長期金利、即ち新発10年物国債利回りと強い相関がある。金利とは債権発行主体に対する信用リスクの裏返しであり、且つ、その債権に対する期待収益を表す指標であるといえる。
よって極めてシンプルに言えば、日銀の政策金利とは、景気低迷時には金利を低く抑えることで通貨の流通を促進させ、景気を回復させるという意味合いを持ち、国債利回りとはその発行主体である国に対する信用度合いを表わしていることといえる。
以上を踏まえると、政策金利については現状のわが国の経済状況から、急激な利上げは考えにくい。一方で、長期金利は、欧州の経済危機で明らかとなったようにその国の財政状況、経常収支の状況に依存する部分が大きく、日本が持つそれらのリスクも既に顕在化されている。
これまでのようにプライマリーバランス(基礎的財収支:政府会計において、過去の債務に関わる元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との収支)が常にマイナスの状況が続く限り、国債は発行し続けなければならず財政収支の悪化は止まらない。
既にGDPの2倍を超える債務残高を持つわが国の国債に対する信用力はいつ低下してもおかしくない状況にあると見ている。
その上で私たち住宅購入予定者が注目しておくべき動向は、格付け会社の日本国債に関する格付け評価の動きである。格付けの引き下げによって国債の金利が上昇し、長期金利が引き上げられる可能性があるからだ。
このように金利の動向については、マクロ経済環境の動きに大きく左右されるものの、住宅・不動産購入を検討するものにとっても大きな関心事項でもあり、注目すべきファクターである。
■ 増税議論にまどわされない、慎重な選択が大切
2.消費税の動向
そして、来年以降、住宅購入を考える人にとって最も気になることの1つが「消費税の動向」であろう。現在、政府は「社会保障と税の一体改革」のもと、消費税の引き上げを検討している。消費税の引き上げについては与野党とも、賛成・反対の意見がぶつかり合っているため、実際近々にその方向性が決定するかどうかは未だ微妙な状況ではある。
しかしながら、先に挙げたわが国の財政の現状を踏まえると、(消費税を含めるか、税率をいくらにするは別にせよ)遅かれ早かれ増税の決断をしなければならないタイミングが訪れると思われる。
では、結論として「消費税が上がる前に早めに住宅購入の決断をすべき」ということになるかといえば、必ずしもそうではない。
消費税増税前の駆け込み需要は、買い手の交渉力を弱める力が働く。売り手市場となってしまい、例えば値引き交渉やサービス付加交渉などが難しくなるということだ。
「消費税が増税されるかもしれない」という声に負けて本来求めていた住宅、不動産のレベルを妥協して購入の決断を急ぐことは、本末転倒であり、最も避けたいことである。妥協した住宅を購入したことによる将来の実質的または精神的コストを考慮すると、5%程度の増税分の価値はすぐにペイしてしまう可能性があるからだ。
また、土地には消費税はかからない。住宅の資産価値を決める上で最も重要なファクターである立地の選定には、地盤の調査も含めて十分に時間をかけていただきたい。また住宅購入に関する消費税増税の特例措置などは期待しにくいが、前回の平成9年に行われた増税(税率3%から5%の引き上げ)の際には、契約の期間における猶予措置がとられている。
消費税の適用税率は原則、引渡時の税率であるが、この平成9年時の税率アップの際は、引上げ実施の半年前までに契約を結んでいれば、増税後の引渡でも旧税率が適用された。
今後、実際に消費税の引き上げを実現するための条件の中には、時間がかかる法案の通過のみならず、総選挙等なんらかの形で国民に信を問う可能性も高く、住宅購入検討のための時間的猶予は十分にある。
以上のように、消費税については、「増税議論」に対する過度な反応は抑制し、冷静に自らの主体的な購入基準に基づいた選定を進めることをお勧めしたい。
■ 2012年も続く住宅投資に関する優遇政策
3.住宅ローン控除、贈与税非課税枠の拡大措置、住宅エコポイント等、国の住宅政策の動向
住宅の実質的な価格の引き下げにあたる、住宅ローン減税や贈与税非課税枠の拡大措置、住宅エコポイントなどの政策は、本来時限的措置であり、今年にもそれらの制度が終了または段階的縮小を図る予定のものが多かったが、3.11をきっかけにその措置の延長または継続、新設等の措置がとられている。
住宅ローン減税は、もともと2013年12月31日までの適用期限が設けられている。よって引き続き合計で200万から500万円程度の控除が受けられる。
贈与税非課税枠の拡大は2012年度税制改正大綱に組み込まれる内容として先日政府・税制調査会で方針が決まった。認められた拡大措置は、省エネ性や耐震性に優れた住宅家屋について、2012年に贈与を受けた場合、非課税限度額を1500万円に拡大。
それ以外の住宅家屋は限度額1000万円で対応。いずれの住宅家屋も非課税枠を段階的に縮小しつつ、2014年まで3年間特例を行うということである。
住宅エコポイントも今年の7月末に従来のエコポイント制度は一旦終了したものの、新築については10月21日から、リフォームについては11月21日から新たな「復興支援・住宅エコポイント」制度がスタートしている(日付は工事対象期間の始まり日でともに2012年10月31日までに実施された工事が対象。ポイント発行申請は来年1月25日以降)。
被災地と被災地以外に分けてポイントの付与率が異なるもののエコ住宅、エコリフォームに対するエコポイントの付与が再び始まる。
このように、基本的には2012年も引き続き住宅投資に関するさまざまな優遇措置は継続するものが多い。実質GDPに占める住宅投資の割合は3%程度。決してそれほど大きいとは言えない。しかしながら、住宅投資はその他への波及的な経済効果(引越し需要、家具や家電の購入、自動車の購入等)も大きく、経済復興を牽引する1つの重要な政策でもある。
以上、2012年に住宅・不動産を購入する際の買い時の判断を見極める視点として、「1.金利の動向」、「2.消費税の動向」、「3.住宅投資に関する優遇政策」について考察した。ここからわかることは、住宅購入のタイミングをある程度正しく見極め判断するためには、住宅そのものの選別眼以上に、マクロの経済状況や政府の施策等、幅広い視点と視野が必要であるということだ。
住宅購入の検討をきっかけに今の世の中の動きや経済の動きに対する理解を深めることも十分に可能である。ぜひ、皆さんもそのような視点を持って、自分にとってより良いタイミングでの住宅購入を実現していただきたいと思う。
◆◇◆ 執筆者プロフィール | |
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久木田 光明 (クキタ ミツアキ) 船井総合研究所 経営コンサルタント 1977年生まれ。専門領域は住宅・不動産セクター。ハウスメーカー、マンションデベロッパー、不動産仲介、賃貸、管理会社のコンサルティングを中心に、調査・分析、戦略・戦術策定を行うと共に、現場支援を重視した活動も広く展開。「脱業界常識」をコンセプトに大手から中堅、中小に至るまで多様な企業に対応したコンサルティングを提供。 | |
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