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なでしこジャパンはなぜ諦めなかったか。佐々木監督に学ぶ「思い込み排除」の重要性

川原 慎也(2011/09/05)

経営管理・マネジメント

■ 「言うは易く行なうは難し」。それでもなでしこジャパンが勝てた理由

「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」

パナソニックの創業者である松下幸之助氏が残したこの言葉は、多くの方々が耳にしたことのある名言だと思います。ただし、実際にやる側になると、数多くの困難に直面することも確か。「どうやって“諦めない”組織をつくるか」は、多くのリーダーが頭を抱える課題です。

先日、奇跡のワールドカップ制覇を成し遂げた「なでしこジャパン」 のメンバーたちの“諦めない”姿勢に感動した方はとても多いと思います。それは、“諦めない”気持ちを持ち続けることの難しさを誰もが知っているからではないでしょうか。

なでしこジャパンを率いる佐々木則夫監督の戦略は、「対戦相手のパス回しを中央に誘いこんでボールを奪い、素早く攻撃に転じる」でした。

これには2つの理由があります。まず、相手のボールをフィールドの中盤でインターセプト(敵のパスを奪う)してからの攻撃は、ディフェンスからボールを押し上げていくケースと比較すると、ゴールを奪う確率が格段に上がること。

もうひとつは、なでしこジャパンのメンバーと欧米強豪国との体格差を考えると、相手が外(ライン側)を駆け上がり、センタリングを上げられて空中戦になった場合にどう考えても不利であること、を認識していたからです。

特に2つめに関しては、「ディフェンスは(フィールド)中央を敵に突破されると、ピンチになりやすいから出来る限り外に出そう」という常識的なスタンスを持っていたならば、なかなか出てこないアイデアだと思います。しかし、それが出てくるところがチームを勝利に導くリーダーたる所以なのでしょう。

とは言え、「言うは易く行なうは難し」。実際にプレイする選手たちは当初はなかなかできなかったようですが、練習はもちろん、試合後のビデオによる振り返りなどを繰り返しながら、「ここでパスを出すはず」という事前察知能力を磨き続けることで、戦略を実行できる組織へと育っていったのです。

このように、ワールドカップ制覇というなでしこジャパンの偉業は、「正しい事実の把握」、「その事実をどう認識するか」、「勝てるイメージを持てる戦略」、「実行精度を高める訓練」というビジネスでも重要な要素が網羅されている点で、大いに参考になります。

すでに1年が経ちましたが、サッカー日本代表男子のワールドカップフィーバーの頃にも同じような視点を、講演などの場で話したのを思い出しました。その内容は、マスコミを中心に日本国中で日本代表の得点力不足が共通認識となっていましたが、果たして「“得点力不足が課題”は本当か?」というものです。

確かに、アジア予選においてはアジアの強豪国である日本に守備重視の戦略で迫る対戦相手に対して、ゴールを決められない状況を打破するのは大きな課題でしたし、事実、格下相手にも苦しめられていました。

しかしながら、ワールドカップ本選になると、当時の日本の世界ランクは出場国中でも下位の方。アジア予選とは全く異なる戦略を求められていました。つまり、「得点力がない」ことは事実として捉えるべきですが、「その事実をどう認識するか」が問題であり、本選直前というタイミングも考慮すると、「得点力がない」から「いかに得点するか」ではなく、「得点力がない」から「相手にも得点させない」ことをメインに考えるべきだったのです。

事実、岡田前監督が作戦を切り替えた(先発メンバーやポジション)結果、予選突破を果たすことができました。このことからも、「事実をどう認識するか」が、「勝てるイメージをもてる戦略」をつくる重要なポイントになるとおわかりでしょう。

企業において“戦略”が重要なテーマであることは、ビジネスに携わっている方々に今さら言うまでもないことです。しかしながら、「正しい事実を把握する」、「その事実をどう認識するか」の重要性がなかなか浸透していないと感じる場面が多々あるのも事実です。

では、いくつか事例をあげながら考えてみましょう。


■ 「事実」と「意見」を混同していないか?

新入社員である部署へ配属されてきたA君。彼は、先輩社員からの指示を受けると、すぐに「ハイ」と返事をしてすぐに仕事に移るのではなく、「これについて自分は○○だと思うのですが、先輩はどう思いますか?」や「この仕事って何の意味があるんですか?」などと、どんな先輩相手に対しても思ったことをどんどん発言するタイプです。

事実として、彼は「コミュニケーションを活発にする後輩」といえますが、先輩社員からの評価は、「仕事もできないくせに生意気で面倒な後輩」と「なかなか見どころのある後輩」に二分されます。

そのこと自体に問題はありませんが、ここで問題なのは、評価をしている側の先輩社員が自ら下している評価をあたかも事実だと思い込んでしまっているケースが多く、“事実”と“意見”は違うという前提を忘れてしまっている点です。

約10年前、東京都内に店舗展開するオートバイ販売店の仕事をする機会がありました。最初に社長と話をすると、「オートバイ市場は年々縮小していて、昨年はついに年間100万台を割り込んでしまった。近隣には日本でも有数のメジャーな販売店があり競合しているから、もう廃業するしか残されてない気がする」と言っていました。

市場縮小も、競合店の存在も事実です。しかし、その店舗は半径1キロメートル程度の足元商圏のシェアもほとんど獲得できていない状態であると同時に、競合店が強化している商品を同じように揃えていました。そういう意味で、まだチャンスはあると戦略を見直して取り組んだところ、年商は5年で2倍にまで成長しました。

「正しい事実を把握する」とは、把握すべき事実は何かを捉えることとほぼ同義です。「日本全体の市場縮小」という大きな視点で捉えるべき事実ももちろん大切ですが、「自社の戦っている戦場(エリア)」はどうなっているか、という視点も同じくらい大切なのです。

これは家電製品の販売市場にも言えることです。「価格と品揃え」で圧倒するヤマダ電機やヨドバシカメラといった大手家電量販チェーンの台頭で、歯が立たないと思われがちな「町の電気屋さん」(商店街等に立地している小さなお店)。確かに、かつてと比較すると店舗数は減少していますが、戦略を変更して元気を取り戻している店舗はたくさんあります。

また、菅首相の退陣に伴って行なわれた民主党の代表選挙でも、新聞・TVの報道を見ていて気になるのが、消費税増税に賛成派、反対派といった二元論的な主張でした。

その議論の中で展開されるのが、「国家の収入が不足しているのだから、消費税増税はやむを得ない」といった意見で、「被災地復興のために」や「アンケート調査の結果、増税賛成の国民が増えている」といった材料を揃えて、その意見を後押ししています。

国家の収入が不足しているのは紛れも無い事実ですが、「その事実をどう認識するか」に本当に必要となる材料は提示されていないので、その報道から国民が「日本に必要な戦略を考える」ことは非常に難しいでしょう。

ちなみに、かつて消費税を3%から5%に増税した後、デフレに苦しむ日本では所得税収入や法人税収入が落ち込み、総収入が落ちてしまったという事実もあります。


■ “思い込み”の戦略が敗北につながる! 正しい事実の把握と認識を

できるだけ身近な例をあげながら、「正しい事実を把握すること」と「その事実をどう認識するか」という部分の重要性を述べてきました。いずれにしても、陥ってはならないのが“思い込み”です。

BCP(事業継続計画)の重要性をテーマにした前回の私の記事でも、“思い込み”が大きなリスクになることを書きました。

人口減少傾向にある日本市場は、成長が見込めないから中国やアジアの新興国へ打って出るべきだ(市場が拡大しそうな国に出ていけば成長できる)と拙速に考えるのも、“思い込み”だと思います。

かつて日本は、戦後から高度経済成長期にかけて、国益を守る(日本企業を興し育成する)ために様々な工夫をして先進国の仲間入りをしました。これから成長を図る国々も当然それぞれの国益を第一に考えるわけですから、そこで外様である日本企業が成功するためには、日本でビジネスをする以上の“戦略”が求められるのは言うまでもありません。

だからこそ、“思い込み”の排除、すなわち「正しく事実を把握する」、「その事実をどう認識するか」という“戦略”の根幹を鍛え上げなければならないのです。

◆◇◆ 執筆者プロフィール

川原 慎也 (カワハラ シンヤ)

船井総合研究所 シニアコンサルタント
戦略コンサルティンググループ グループマネージャー

1998年船井総合研究所入社。中小企業を中心に展開されていた船井総研のノウハウ(現場重視で売上・利益向上を具現化)を、大手企業にも展開できるコンサルテーションへと発展させた第一人者。
クライアント企業の本質的な課題に切り込んだ上で、社員を巻き込みながら解決策を具現化していくコンサルティングスタイルは、組織変革や社風改革の必要な現場から確実に高い評価を得ており、近年はM&A後の組織再編といった業務においてもその効果を証明している。
また、企業のさまざまな問題(マーケティング、組織変革、人事、教育研修等々)に応えるために、社内のタレントを積極的に活用し、必要であれば社外の専門化との連携も実施しながら推進されるプロジェクトコンサルティングにおいても、高い顧客満足を獲得している。

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