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アウトドアブームは“単なる流行”ではない。「山スカ」大ヒットの裏にある消費者の欲求変化を掴め!

岩崎 剛幸(2010/07/02)

マーケティング戦略・営業戦略[ファッション]

「今度の日曜日、一緒に山に登らない?」

誰の言葉だと思いますか。
私の知っている28歳OLが友達に送ったメールです。

これまで登山と言えば、団塊世代以上の「年をとってからの趣味」程度にしか思われていなかったものが、ここにきて、特に若年層のレジャーの一押しイベントになり始めています。

この登山ブームの裏側にあるものは何なのか。
登山ブームの背景を探ると、今の消費者のニーズの変化が見て取れます。

今回は、広い意味でのアウトドアブームから、これからのマーケティングの新潮流を探ります。


■ 「山スカ」ってご存知ですか?

2010年のファッション業界においてもっとも注目されているファッションに「アウトドア」があります。

2010年秋・冬の主役になることは間違いないトレンドです。

その代表的な新しいアイテムが「山スカ」です。

山スカとは何か?

それは、「山歩き用のスカート」のことです。通称、「山スカ」と呼ばれています。2008年ごろから市場に投入され、当初はそれほどでもなかったのですが、2009年の春ごろからかなりの人気アイテムになっています。

登山の際にこの山スカだけを履いて登る人はほとんどなく、通常は下にレギンスやスパッツなどをあわせて着るものです。ミズノ、ゴールドウイン(ノースフェイス)などのスポーツメーカー、モンベル、チャムスなどのアウトドアブランドからも続々と女性向け山スカートが発売されています。

また最近では、ワンピースや、カラフルなジャンパー、帽子、手袋、靴にいたるまで、たくさんのかわいいアイテムが発売されています。

これらのアイテムの特徴は以下の通りです。

(1)コーディネイトが可能
(2)機能性がある(保温性、着替えやすい など)
(3)ファッション性がある

特に「ファッション性があること」がポイントで、最近ではこれまでにないようなカラフルで、かつ機能性も高いアイテムが小売店の店頭に陳列されるようになりました。

では、なぜアウトドアファッションが注目されているのか。

それは、今まで山には縁がなかったような若い女性の間で、山に登ること、外で遊ぶこと、自然の中に出かけることがトレンドになり始めているからです。

登山人口が爆発的に増えているわけではありません。年々増えてはいますが、過去のピーク人口から見るとまだまだです。

しかし、これまでとまったくちがうのは、「街で見かけるような若い女性の登山人口の増加」です。彼女達が求めるようなアイテムがこれまでのアウトドアファッションにはなかったのです。若い女性が買いたい「かわいい」アイテムが市場になかったのです。

そこで、もっとかっこよく、ファッショナブルにアウトドアを楽しめるようなファッションアイテムが続々と市場にでてきたのです。

変化のなかった成熟した市場に、ファッショントレンドが入るようになると、そのトレンドパワーはさらに大きくなってきます。

つまり、アウトドアファッションブームは、女性が市場に参入してきたことで、ファッショントレンドを生み出し、その周辺商品、サービスにまで影響を及ぼすようになってきたのです。

では今回のアウトドアブームはどこからきたのでしょうか。


■ 富士山・高尾山、野外フェスが三大牽引要素

今回のアウトドア・登山ブームを引っ張る大きなポイントとして、「富士登山ブーム」があります。富士登山は昔からある夏の風物詩ではありますが、2005年までは20万人程度の登山者(毎年7/1~8/31の累計数字)だったのが、2007年ごろから増え始め、2008年には30万人を超えています。この富士登山ブームがアウトドアの流れを作るきっかけになりました。

併せて、ミシュランにより2007年に刊行された「ミシュランガイド」にて、高尾山が観光地部門で三ツ星を獲得したというニュースも何度も放送され、特に、「フランスで高尾山」というギャップが注目を集めました。

またもう1つの後押ししているものに音楽イベントがあります。「野外フェス」です。いわゆる「夏フェス」(夏に開かれる野外ライブ)と言われるものです。野外フェスの中ではフジロックフェスティバル(新潟)がもっとも有名ですが、今や全国各地のスキー場、キャンプ場、海岸などで100を超える野外フェスが開かれるまでになりました。これらは大自然の中で行われることが多いため、アウトドアファッションに身を包み、バーベキューをしながら音楽を楽しむというスタイルが1つのファッションになりました。これが長靴が売れるきっかけになったとも言われています。

こうしたことが積み重なってきて、「ちょっと行ってみようか」という人が増え始め、2008年ごろからアウトドアや登山が時流になり始めてきたのです。


■ アウトドア市場で注目されるモノとコト

自然の中に身をゆだねる、大自然のパワーから何らかのエネルギーをもらえるアウトドア市場に人々の関心が寄せられています。ではその市場とはどのくらいの規模なのでしょうか。

登山の参加者は590万人(2008年度データ)。MS(マーケットサイズ:年間1人当たり消費支出金額)は3万400円ですから市場規模は約1800億円となります。

ピクニック・ハイキング・野外フェス等の参加者は2470万人程度あります。MSは1万5200円、市場規模は約3800億円になります。

上記の2つの市場を合計すると、顕在化している市場で約5600億市場。ギアやファッションなどのアウトドア用品の市場規模に限定しても、1500億~2000億程度(船井総研推定値)はあり、これが年々拡大傾向にあるのです。

アウトドアが注目されると下記のようなモノやコトに注目が集まります。

アウトドアブームは各種商品やサービスを進化させ、そこに新しい市場を生み出してきていると言えるのです。

では、なぜ山やアウトドアに人は群がるのでしょうか。


■ チャレンジ・達成感・充実感を得られる空間に人は引き寄せられる

私はこうしたアウトドアブームの裏には、大きな消費スタイル、消費性向の変化を感じています。

これは私が執筆している「ブランディングナビ」の中でもいくつかのコラムで記述していますが、世の中の時流、消費者の価値観が大きく変化してきていることを表しています。特に消費者欲求の変化がもっとも顕著に表れている事象であると言えます。

もしかしたらアウトドアブーム自体は一過性のものかもしれません。
しかし、その時流を支えているお客様の欲求の変化こそ、私達が見ておかなければならない大きなマーケティングの潮流なのです。

登山やアウトドアが、瞬間的、一時的変化である「ファズ」だとすれば、その裏にある、お客様の欲求の大きな変化こそが本当の「トレンド」です。ではその変化とは何か。

このトレンドが「達成感を味わいたい」「充実感を得たい」「少しだけ自分の限界に挑戦してみたい」という非日常の消費傾向があると私は考えています。

普段の生活の中に、ドキドキがなくなってきている。

刺激を求めているのだけれど、そんな経験をする機会が減っている。
未経験のことにチャレンジしたいのだけれど日常では危険すぎるし、そこまで冒険したくない。でも山やアウトドアならそれができるかもしれない。そんな思いが若い女性を山に走らせているのです。

モノが溢れ、ブランドに飽きた女性達が次に求めたものは、「知的欲求の充足」でした。

これは自己実現欲求と言ってもいいかもしれませんが、もう少し軽い、ライトな感覚です。

自分自身を磨く、自分の知性を磨くことにお金と時間を使うことが2000年を過ぎたあたりから増えてきました。

例えば、女性に人気のあるものには次のようなサービスがあります。

 ・ ジム
 ・ 英会話などの教室
 ・ 朝活
 ・ マラソン
 ・ 料理、マクロ
 ・ ダイエット
 ・ ゴルフ

しかし、こうしたことは何らかの「知識」や「技術」につながるものです。やり続けていくとだんだん飽きてきます。

飽きてくると次に欲しくなるのが、「今までに体験したことがないことを経験したい」欲求です。

不況の影響で会社でも認められない、仕事もつまらない、彼氏とデートしてもマンネリ気味でつまらない。テレビは政治の話ばかり。こんな日常から離れて、自分だけの達成感を味わいたい。そして、どうせ時間とお金を使うなら、普段感じることが少ない、達成感や充実感を感じられる体験をしたいのです。

それがたまたま「山とアウトドア」にあったということです。

物質的な欲求、利便性など、単なるモノやサービスを求める時代から、充実した時間を過ごしたい、達成感を味わえるような体験をしたいという「非日常」を求める時代に世の中は明らかに変化しました。

i-Padの世界的な流行も、そのモノの価値というよりも、その中から生まれてくる世界、新しい情報、知的欲求を満たしてくれるアプリ、そこからの新しいコトとの出会いに期待できるからだと言えます。

Twitterの大流行も、見ず知らずの人とつながり、そこから生まれるサプライズ体験が人を引きつけています。

いかに消費者をドキドキさせるか。

今までに体験したことがないことだ! と思わせられるか。この非日常体験の提供こそが、これからの時代のマーケティングの潮流としておさえておくべきポイントだと私は思います。

アウトドアや登山を自社とは関係ない、単なる1つのブームと見るのではなく、そこに人々の興味関心が向いている本質とは何なのかに目を向けることが大切です。

充実感や達成感を味わいたい消費者の嗜好にどう対応していくか。

これからのマーケティングの新潮流の1つです。

◆◇◆ 執筆者プロフィール

岩崎 剛幸 (イワサキ タケユキ)

船井総合研究所 上席コンサルタント

平成3年、株式会社船井総合研究所入社。現在、同社ライン統括本部次長。「戦略は思いに従う」を信条に、ファッションを専門分野として、現在では百貨店、アパレル業界を中心とした流通業とテレビ、広告代理店をはじめとしたメディア業界におけるコンサルティングを実施。現場支援と年間150回を超える講演活動により、情熱に満ち溢れた企業づくりにまい進している。テレビ出演、雑誌、新聞の取材、執筆も数多く、コンサルタントの枠を超えた活動にも注目が集まっている。
この数年のコンサルティングテーマは「永続するための企業ブランド戦略づくり」。社員が誇れる会社を作るためのコンサルティングに全力を注いでいる。
著書に『働き方で未来が変わる!社員が誇れる会社をつくる』(秀和システム)などがある。

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