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日米間のベンチャーを取り巻く環境の違い

(クイックウィンズ株式会社 代表取締役 坂口 健治)

先日、米国VC協会理事を務めるVCのパートナー(日本人)のご講演を聴く機会をいただいた。パートナー(社員)はたったの9名。にもかかわらず約2,000億円というファンドをシード/アーリーステージの世界中のベンチャーに投資しているという。

いろいろお話を伺ったが、投資理念が素晴らしく、また日米間でのベンチャーを取り巻く環境の相違など興味深い話を聞くことができたので以下ご紹介したい。

■ 投資理論(素晴らしいと感じた点)

・ VCがお金を出すのは、これはと判断したベンチャーに資金的苦労をさせない為である
・ そのため、数千万円ではなく数億円の投資が基本スタンス
・ シェアは創業者に残さないと創業者のやる気がそがれる
・ そのための方法はいろいろあるが、基本的には優先株などの割り当てに応じている

私の会社は今のところ資金調達をかけているわけではないので、日本のVCの実態はわからない。だが、ITバブルが崩壊して以降、このような投資理念を打出しているVCがどれくらいあるのだろうか。世間知らずなだけかもしれないが、私の知る範囲では聞いたことがない。

■ 日本と米国のベンチャーを支える4つの環境の違い

1. 起業家を支えるインフラ
・ ハンズオンサポートが日本のサラリーマンVC社員には出来ない
・ ヘッドハンティング機能が弱い:良質な人材の流動性が低い
・ 銀行や証券会社のExit戦略が弱い:とにかく上場ありきで上場後破綻する企業が絶えない。これにより投資家心理が冷え切っている
・ ソーシャルキャピタルが無い

2. 起業に対する社会の評価
・ 成功の定義が米国と違う
 有名大学の教授が授業において、一流は起業、二流は大企業と公言する:学生の常識に影響
・ 起業の失敗時の評価が違う
 米国ではもしも失敗しても、大企業が喜んで雇用する
・ シリアルアントレプレナー
 米国では起業して成功したのち、次の起業に向かうケースが多いが日本ではそのまま居座る
・ スター不在
 ホリエモンのように出る杭が叩かれすぎて誰も出られない雰囲気がある
 (彼は実際良くないことをしたのだろうが)

3. 教育
・ 文系/理系の意味の無い区別
・ 教育とビジネスの境界
 大学では、ビジネス経験のある教授が評価されるが、日本では「准教授」「XX教授」と不公平な区分けされていている
・ 外国語(英語)などコミュニケーションツールとして割り切った教育がなされていないこのため、幾ら教育しても話せる人が少ない。インドや中国などは「通じれば良い」レベルでドンドン話すが、日本人は躊躇が先行

4. ベンチャーと大企業の関係
・ 日本の大企業は自前主義
・ 米国ではM&Aによる成長戦略上にベンチャーがいる:Exit機会が多い
・ CIOの感覚が違う
 米国ではITはコストセンターだから、大企業でも良ければベンチャーの技術を使ってでもコストを下げようとする:日本では大企業⇔大企業

また、違った観点だが、過去の実績に基づく成功ベンチャーの共通項として次のような説明があった。

■ 成功ベンチャーの6つの共通項

1. CEO(創業者)が健在
2. 創業時から、人材やビジネスモデルがグローバル
3. 何らかNo1.
・ No1.である切り口をしたたかに打ち出している
4. 顧客中心の商品やサービス作り
・ 技術などは1.5流でも顧客目線を優先する会社が伸びる
5. 得意分野にフォーカス
・ リソースや経営資源を考慮し何かにFocusしている
6. 上場後も創業者の態度が不変

経営コンサルティングとVCが行うハンズオン支援は行うことはかなり似ている。コンサルティングはお金をいただいて経営改革を支援するのだが、VCのハンズオンはお金を投資して事業主体者として経営改革を行う。関与の形態は違うが、現場で行うことの共通点は多い。

そこで一コンサルタントとして質問してみたのだが、米国ではVCのハンズオンをコンサルに外注するケースもあるらしい。たしかに9人で2,000億円のハンズオンはそれなりに無理があるだろう。
ハンズオンはもちろん多種多様であろうが、日本のように、金は出すが口を出さない(出せない?)のではなく、ハンズオンの効用を理解したうえで、自分たちでやるかもしくは、コンサルと組んででもハンズオンを行うという選択肢もあるのではないか。お金を投資して運用しているのは米国も日本も同じだが、「ベンチャー成長支援」という本質に対するコミットメントが随分日本とは違うような気がする。
(この記事は2008年11月14日に初掲載されたものです。)

【記事提供元】
INSIGHT NOW!(インサイトナウ)